天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・アルプス山脈の北，氷の海の北にはＷ.ボンド（直径158km），ゴールドシュミット（120km）などの周壁が崩れた古いクレーターが多く存在します。そんな中，周壁のシャープさが際立つ新しいクレーターがアナクサゴラス（51km）です。満月近くでは，アナクサゴラスから放射状に見える光条が目立ちます。
・アルプス山脈の中に目立つクレータープラトー（直径101km）があります。内部が溶岩できれいに覆われているのが特徴です。西側の周壁に欠けたような部分が見られます。小望遠鏡では見えませんが，口径20cm以上の望遠鏡で大気の条件が良いときには内部に小さなクレーターが４～５個認められます。
・アルプス山脈には小望遠鏡でもよく認められるアルプス谷（長さ180km／幅10km）があります。ぜひ確認しておきたい地形です。
・プラトーの南にある独立した山塊のピコ山から西にテネリッフェ山脈（長さ110km／高さ2400m），直線山列（長さ90m／高さ1800m）と特徴ある山が続きます。特に直線山列は他には見られない珍しい形状です。どのようにしてできたのでしょうか？

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・虹の入江は天体衝突によってできた直径260kmのクレーターの跡です。のちに溶岩で埋められて今のような形になりました。北西の周壁にあたるのがジュラ山脈。その東端がラプラス岬，南西端がヘラクレイデス岬です。入江の入口にはリンクルリッジ（しわ）が走っています。まるで，入江に大きな波が押し寄せているようです。
・写真は虹の入江に朝が来る頃のタイミングですが，入江の内部はまだ暗く，ジュラ山脈が円弧状に強く輝いています。おそらくこの様子が虹を連想させたので虹の入江と名付けられたのでしょう。非常に美しく印象的な光景で最も有名な月の名所の一つです。
・虹の入江は月の周縁部分に近いので，秤動によりつぶれて見えることもあります。光の当たる角度も見るたびに違いますので，いつ見ても新鮮な感覚で楽しめるのが素敵です。

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・コペルニクス（直径93km）は最も有名なクレーターの一つで，クレーターの王様と称されることがあります。およそ10億年前の天体衝突で誕生した若いクレーターです。海が多い暗い領域に衝突したので，その飛び散った物質は白っぽい光条として非常によく目立ちます。エラトステネス（58km）もかなり立派なクレーターですが，コペルニクスと比較すれば流石に見劣りしてしまいます。
・コペルニクスの深さは3760ｍ，中央の山は底面からおよそ1200ｍもあります。周壁の内も外も階段状の地形が目立ち，さらに外側には放射状に物質が流れた跡のようなものが見えます。凄まじい存在感です。
・コペルニクス形成時の衝突で飛び散った岩塊によってできた２次クレーターもまわりに多く見られます。その中で大きなものはゲイリュサックＡ（15km）とファウト（12km）及びファウトＡ（10km）です。小さなものはコペルニクスとエラトステネスの間に多数見られます。その中には，クレーターが並んでいる部分（クレーターチェーン）もあります。
・コペルニクスの北にある山脈はカルパチア山脈（長さ400km）です。高さが1000～2000mの山が連なっています。雨の海の南西端にあたります。
・コペルニクスの西，ホルテンシウス（14.6km）とミリキウス（13km）の周辺にはドーム（溶岩の噴き出しにより盛り上がった地形）が多数あります。特にホルテンシウスの北のドーム群とミキリウスの西のπはわかりやすいので，探してみてください。ただし，明暗境界線付近でないとわかりにくいので注意のこと。

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・島の海，知られた海，雲の海が接するこの領域は溶岩に埋められたクレーターが多く見られます。フラマウロ（直径95km），ボンブラン（60km），オペルト（49km）等，かろうじてクレーターの跡が認められます。こうしたクレーターはゴーストクレーターと呼ばれます。なかなか上手いネーミングですね。
・フラマウロ，ボンブラン，パリー（48km），ゲーリケ（58km）は溶岩で埋められただけでなく，雨の海形成の元になる天体衝突で放出された物質が薄く堆積しているとのこと。
分厚く堆積しているのが，北にあるフラマウロ丘陵です。

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・雲の海にはルビニエツキー（直径44km），オペルト（49km），キース（44km）などのようにほとんど溶岩で埋められたクレーターが目立ちます。
・その中でブリアルドス（61km）は非常によく目立つクレーターです。その北西に伸びる幅広で浅そうな谷がＷ谷。途中で橋を架けるような高台があります。
・このエリアの大きいクレーターといえば南端にあるピタトス（97km）が１番で，周壁に沿って谷も見られます。その東にくっついているのがヘシオドス（43km）。ヘシオドスの南に小さくくっついているのがヘシオドスＡ（15km）です。よく見ると同心の２重の周壁があります（同心の２重クレーター）。こんなクレーターは他にありません。どうしてできたのでしょうか？不思議です。
・雲の海の東には直線壁（長さ110km，幅2.5km）が，西にはヒッパルス谷（長さ240km）があって，小型望遠鏡でもよくわかります。
・直線壁の東にあるサービット（57km）は，サービットＡ（20km）・サービットＬ（10km）がそれぞれ周壁に重なっておもしろい眺めです。直線壁の西側にあるバートにも周壁に小さなクレーターが重なっています。
・病の沼にあるカプアヌス（60km）は存在感があるクレーターです。周壁から北西に伸びる３本の爪のような形状と反対の南東側にあるごちゃごちゃしたいくつものの小クレーターが特徴的です。私はこれがクマの手のように見えたので，「クマ手クレーター」と名付けています。
・病の沼の北側にはカンパヌス（48km）とメルカトル（47km）がきれいに並んでいます。これ，何かメガネっぽく見えませんか？　というわけで，私はこれらを「めがねクレーター」と名付けました。

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・ティコ（直径85km）は１億年くらい前の衝突でできたきわめて新しいクレーターです。深さは4850ｍもあり，中央の山はクレーターの底から2480mの高さがあるとわかりました。周壁の内側は段々畑みたいですね。
・ティコの南で最も存在感のあるクレーターはクラビウス（225km）です。大きさで言えば横綱級，周壁にポーター（52km），ラザフォード（48×54km）を従え，ラザフォードからは内部に孤を描くように順に小さくなっていくクレーターが並びます。何というバランス！奇跡の配列ですな！
・これら以外にもこの付近にはロンゴモンタヌス（145km），マギヌス（163km）をはじめ，モレトス（114km）ブランカヌス（105km），シャイナー（110km），クラプロート（119km），カサトス（111km）と100km超級の大型クレーターがひしめいています。しかし，南の端っこに近いので横に伸びた楕円形に見えちゃいますね。秤動によってはクラビウスもかなり楕円形につぶれて見えることもあります。