せつなすぎる!こと座物語

 こと座は,夏の大三角で最も明るい1等星ベガを持つ小さな星座です。星座の形はベガと近くの2つの星をつないで小さな三角を作り,そこにつながる平行四辺形が目印となります。都会の空ではベガ以外の星が暗いので,倍率低めの双眼鏡でたどるのがおすすめです。

 さて,ギリシャ神話では,ヘルメス神が赤ちゃんの時に亀の甲羅と牛の腸で作った竪琴で,ものすごく良い音を奏でたという代物です。すごいですね,さすが赤ん坊でも神様のなせる技!
 で,ヘルメスの演奏に感心した音楽の神アポロンが「その琴をくれよ!」と言いますが,ヘルメスは「ただじゃあ,いやだ!」と返します。ヘルメスさん,なかなかしっかりしてます。アポロンはじゃあ牛と交換しようと申し出て,めでたく契約成立し,その琴をゲット。後に息子のオルフェウスに与え,オルフェウスがこの琴の名手となります。オルフェウスの奏でる琴の音色を聞くと吠え狂う猛獣も猫のようにおとなしくなり,流れる川の水も流れるのをやめて聞きほれ,木々も琴の方へ枝を差し延べたといいます。(ほんまかいな~)

「冥府のオルペウス」ジャン=バティスト・カミーユ・コロー作

 そのオルフェウスは美しいニンフのエウリデュケと結婚しますが,なんという不運でしょう!彼女は結婚後すぐに毒蛇にかまれ命を落とします。悲嘆にくれるオルフェウスは,エウリデュケを奪還することを決意し冥界へと旅立ちます。途中,三途の川の渡し守や立ちはだかる亡霊たちを琴の演奏と魂を揺さぶる歌で手なづけて,ついに冥界の神ハデスと面会します。そこでまたも琴を鳴らしエウリデュケを返してほしいと懇願すれば,ハデスの妻ペルセポネの助力もあって,願いが認められました。ただし,「地上に出るまで決して後ろを振り向いてはならない」という条件を付けられます。それを承知したオルフェウスは地上に向かいますが,エウリデュケがついてきている気配が感じられない中で,だまされたのではないかという不安が徐々に大きくなってきます。もうすぐ,地上というところまできていながら,オルフェウスは耐えきれず振り向いてしまいます。その瞬間!ひそかについてきていたエウリデュケは冥界に引き戻され(きゃ~),オルフェウスは二度と冥界に行くことができなくなってしまったのです!

「オルフェウスの死」エミール・レヴィ作

 この話を聞いて誰もが「も~,なんでそこで振り向くねん!!あかんやん!」と思ったでしょう。でも,愛するが故のオルフェウスの行動もわからないではないし,その後のショックがひどすぎることは想像に難くありません。ハデスはこれをわかっていて条件を付けたのでしょうか?条件つけんと気持ちよく返してやったら良かったのに。ほんま,いけずやわぁ~。
 それはさておき,生きるしかばねと化したオルフェウスを気遣ってか,オルフェウスがイケメンだったからか,多くの女性が食べ物を差し入れたりやさしい声をかけたりしますが,オルフェウスは答える気力もありません。女性たちは完全に無視されてしまいます。やがて女性たちの同情の念は憎しみへと変わっていきます。可愛さあまって憎さ百倍とはこのことでしょうか。
 そして,ついにディオニソス神のお祭りの時,女性たちは酔った勢いで憎しみが爆発!オルフェウスを八つ裂きにして琴とともに川に捨ててしまいます!(なんとおそろしい~女性の恨み!!世の男性諸君!女性のやさしさを無視することは決してしないようにいたしましょう。ハイ)
 空に輝くこと座は,それを哀れんだ大神ゼウスによって引き上げられたと言われています。主星ベガの青白い光は,オルフェウスの悲しみを写しているのかもしれません。

 こと座の神話いかがでしたか?
 せつなすぎる話だと思いませんか?
 オルフェウスとエウリデュケにどんな罪があるというのでしょうか?

 ここで私は言いたい!お父ちゃんのアポロンさん!何してんのん!!息子を見殺しですか?そもそも可愛い義理の娘のエウリデュケちゃんが毒蛇にかまれた時も何で助けてあげなかったんですか?医術の神でもあるんでしょう?!冷たいわぁ~
 オルフェウスが振り返る前に,「エウリデュケちゃんはちゃんとついてきているから安心するんやで~,絶対!振り返ったらあかんで~」くらい耳打ちして教えてあげたら良かったのにぃ。振り返ったあとでも,ハデスと交渉してエウリデュケちゃんを奪還してやったら良かったのにぃ。アポロンさんくらいの力があったらできたんやないの?と同じ息子を持つ親として私はこう思うのであります。
 いやでもひょっとしたら,私たち人間レベルではわからない神様の世界の事情というものがあったのかもしれませんね。

 オペラや絵画など文芸作品の主題として多数取り上げられているこのお話。数ある星座神話の中でも最もせつないお話だと私は思っております。

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