天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・この領域が欠け際に来た時，アルプス山脈（長さ250km高さ2400m）とコーカサス山脈（長さ520km高さ6000m）が非常によく目立ちます。
・クレーターでは，プラトー（直径101km）が見ものです。内部が溶岩で埋められていて暗く見えるのでかつては「大暗湖」と呼ばれたこともありました。内部には直径２km程度の小クレーターが５個ほどあって大口径の望遠鏡で見えるかチャレンジしたい対象です。また，西側の周壁の一部が三角形にずり落ちていることも興味をひきます。欠け際に来た時は周壁の影が鋭く内部に落ちて，その起伏のようすが強調されます。その時は内部の暗さも増しますので，まさに大暗湖の雰囲気が漂います。
・広大な雨の海に浮かぶ島のようにピトン山（高さ2250m），ピコ山（高さ2400m），テネリッフェ山脈（長さ110km高さ2400m）などの山々が見られます。
・アルプス山脈の南，コーカサス山脈の西にはクレーターのカッシニ（57km）があります。内部に２つ，外にも１つクレーターがあって特徴的な姿を見せています。

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・この頃のアペニン山脈（全長600km）の見え方は，上弦の頃とはずいぶん印象が異なります。太陽光が当たって輝いている西側が急勾配で，反対の東側がなだらかな傾斜になっていることがその理由です。上弦の頃は西側の雨の海の方へ山の影が長く鋭く落ちるので，とても山脈が険しく見えます。
・アペニン山脈周辺では，フレネル谷（長さ90km），コノン谷（長さ45km）などの谷があります。望遠鏡の倍率を上げて見えるかどうか確認してみましょう。
・ヘームス山脈の南，マニリウス（直径39km）近辺の溶岩で埋められた平坦で暗い場所には湖の名前がつけられています。月面で20個ある湖のうち６個がここに集中しています。
・目立つクレーターは何といってもアルキメデス（直径83km）。内部がきれいに溶岩で埋められているのが特徴です。南のアルキメデス山脈とセットで見るとタコのように見えて愛らしい。次にアリスティルス（55km）とエラトステネス（58km）。いずれも欠け際に来た時は周壁の盛り上がりや段丘，中央の山が荒々しく見えて，とてもパワフルなイメージです。

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・ヒギヌス谷（幅5km長さ230km）は小望遠鏡でもよくわかる地形で，部分的にいくつかのクレーターでつながっているのが特徴です。これらは火山性の陥没や噴火によってできたと考えられているようです。
・トリスネッカー谷はヒギヌス谷より幅が狭い（1～2km）ので，口径10cm以上のできるだけ大口径望遠鏡で見たい谷です。谷はトリスネッカー（直径26km）の東の領域に南北へ複雑に伸びています。なぜこのような形状に谷ができたのでしょうか？
・シャープなトリスネッカーの西には崩れたクレーターのパラス（52km）とマーチソン（58km）が接しています。このあたり，丸っこくかわいい虫のように見えませんか？パラスの中央の山と周壁にくっついた小クレーターが「目」，パラス，マーチソンの下に足が出て，何となく「セミの幼虫」的な姿に思えるのですが…。だとすれば，マーチソンの右下に見える小クレーターはさしずめ「糞」というところでしょうか。題して「セミの幼虫の脱糞」，う～ん我ながら下品だ。
・続いて生き物シリーズ。ウケルト（23km）を口，その上の２つのクレーターを目と見れば，「耳を立て驚くメガネザル」？！いかがでしょう？
・中央の入江はその名の通り，地球に向いた月面のほぼ中央に位置します。黄色い「＋」印は月面緯度０度，経度０度の地点です。

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・プトレマイオス（直径153km），アルフォンスス（118km），アルザッケル（97km）の並びは「中央クレーター列」と呼ばれ，望遠鏡で観察する際の人気スポットとして有名です。月面のほぼ中央にあって半月前後にとてもよく目立ちます。
・プトレマイオスは内部が比較的平坦ですが，アルフォンススは中央の山や谷，しわなどが見られます。また，アルフォンススの内部には４カ所に暗い斑点があり，その中に小さな穴（小望遠鏡では見えない）が開いています。これは黒っぽい玄武岩質の溶岩が噴き出した跡と考えられています。
・アルフォンススの南西にあるアルペトラギウス（40km）は内部に巨大な中央丘を持つのが特徴です。プトレマイオスの北，ほぼ同じ大きさのハーシェル（41km）の中央丘と比較すれば異様に大きいのがわかりますね。通常の衝突クレーターでこのような中央丘ができるのは考えづらいので火山性のドームの可能性があるとのことです。
・プトレマイオス，アルフォンスス，ヒッパルコス（150km），アルバテグニウス（136km）の周壁や周辺には，北北西から南南東の方向（写真の上が北）にかけての多数の筋模様が見られます。これは，雨の海を形成する原因になった小天体の衝突で岩塊が飛び散り，このあたりの月面に多数の傷跡をつけたものと考えられています。これだけのひっかき傷をつくるとは想像を絶する破壊力ですね。
・アルバテグニウスの南にあるフォーゲル（27km）とその上のクレーターが形作るひょうたん型が可愛く目をひきます。串刺しひょうたんと私は呼んでいます。
・アルザッケルの南西には，直線壁（長さ110km）と呼ばれる地形があります。壁というほど急勾配ではなく実際は高低差300m，傾斜角は約７度と比較的緩やかな坂となります。上弦すぎには太陽光の当たり方が逆なので影として見えますが，下弦の頃は写真のように白く光ります。

天体望遠鏡直視（倒立像）

天頂ミラー使用時（鏡像）

・ティコ（直径85km）は１億年くらい前の衝突でできたきわめて新しいクレーターです。深さは4850ｍもあり，中央の山はクレーターの底から2480mの高さがあるとわかりました。周壁の内側は段々畑みたいですね。
・ティコの南で最も存在感のあるクレーターはクラビウス（225km）です。大きさで言えば横綱級，周壁にポーター（52km），ラザフォード（48×54km）を従え，ラザフォードからは内部に孤を描くように順に小さくなっていくクレーターが並びます。何というバランス！奇跡の配列ですな！
・また，シュテフラー（126km），オロンティウス（122km）はそれぞれ周辺にクレーターが重なり合って
特徴があります。
・これら以外にもこの付近にはマギヌス（163km）をはじめ，モレトス（114km）ブランカヌス（105km），シャイナー（110km），クラプロート（119km），カサトス（111km）などと100km超級の大型クレーターがひしめいています。しかし，南の端っこに近いので横に伸びた楕円形に見えちゃいますね。秤動の具合によってはクラビウスもかなり楕円形につぶれて見えることもあります。