2022.11.8 皆既月食・天王星食の撮影

 2022年11月8日 今年一番の天文現象である皆既月食&天王星食が見られました!なんでも皆既食中の惑星食は443年ぶりで次回は2344年7月の土星食まで起こらないという希少なものということで、1カ月ほど前からソワソワしながら準備を進めておりました。
 今回は東の低空から月が欠け始めるため、わが天文台ではスライディングルーフが邪魔で全過程の観測ができないという問題がありました。ちょうど古巣の京都市青少年科学センターで当日天体観望会が催されると知っていたので、参加者に望遠鏡の映像を見てもらいながら全過程の撮影をするというスタイルを提案!撮れた写真などは提供するということで了解を得て、撮影に臨むこととなりました。私は天文ボランティアという立場で退職後も時々天体観望会にはスタッフとして参加しているのでした。

天文ボランティアさん撮影

さて、撮影機材は次のように考えて準備しました。

①月の拡大撮影と投影
 望遠鏡:ALTER7(口径18cm F10マクストフカセグレン直焦点)
 赤道儀:ロスマンディG11(月追尾モード)
 カメラ:Panasonic LumixS5
 ※1分毎に7段階のブラケット撮影、
  スマホでリモート撮影
 ※カメラから出力した映像をビデオプロジェクターで投影

②天王星食の拡大ビデオ撮影と投影
 望遠鏡:タカハシμ250(口径25cm F12直焦点)
 赤道儀:タカハシEM200改(恒星時追尾モード)
 カメラ:ZWO ASI224MC
 ※ノートPCのキャプチャーソフトから撮影
 ※ノートPCから出力した画面をビデオプロジェクター
  で投影

③皆既月食の広角固定撮影
 レンズ:Canon24mm F2.8
 カメラ:Canon EOS5DmkⅡ
 ※三脚に固定し5分毎に3段階のブラケット撮影

 京都市青少年科学センターの機材は①の望遠鏡と赤道儀及びビデオプロジェクターだけで、あとは私個人の機材の持ち込みです。暗くなってから月食がすぐに始まるので当日の機材のセッティングは余裕がありません。そこで、前日に機材を持ち込み観望場所の屋上へ設置。極軸を合わせて望遠鏡にはそのままカバーをしておきました。結構な重労働です。(笑)

天文ボランティアさん撮影

 いよいよ当日。幸いにも一時的に雲に月が隠されるもおおむね快晴のお天気でした。参加者のみなさんも望遠鏡をのぞいたりスクリーンに映った月や天王星食の映像を見て満足してもらえたと思います。特に天王星が潜入する場面では皆さんがスクリーンにくぎ付け!お~ッという歓声も上がりました。一方、困ったのは子どもさんのある行動でした。喜んでいるのか寒いのか?駆けまわったり飛び跳ねたりしてくれます。そのせいで望遠鏡に振動が伝わり、天王星が躍る、皆既食中の長時間露光で月がぶれるなんてことが起こりました。たびたび理由を説明し、走ったり飛び跳ねたりしないでね!と呼びかけないといけませんでした。いわゆる大人の事情です。子どもさんは悪気ないですよね。(^-^;

では、①の撮影で得られた写真を紹介しましょう。

 まずは月食の全過程が一目でわかる組写真です。
 本当は5分毎に並べたかったのですが、18:55が雲に隠され全く写らなかったため10分毎で作っています。皆既中はすべてISO1600、6秒露出で揃えています。その他はそれぞれの時間での適正露出を選び、並べた上で明るさがだいたい揃うように微調整しています。

 これは地球の影がわかるように比較明合成で重ねた写真です。20分毎の写真(皆既中はほぼ食の最大のみ)を使っています。ステラナビゲーターというソフトで撮影時の月の輪郭と地球の影の輪郭を表示し、それぞれを地球の影基準で比較明合成にして合わせます。それを月の画像の大きさに合うように拡大して位置合わせ用の画像とし、そこに月の画像をはめていきます。これらの作業をPhotoshopを使用して行いました。

露出は ISO1600/8s

 今度は皆既の始まり、食の最大、皆既の終わりに同じ露出で撮った写真を並べました。これを見ると食の最大つまり影の最も奥に来た時に暗くなるのがわかります。

 先の写真を地球の影を基準に並べてみると上のようになります。影の外側が明るく内側へ行くにしたがって暗くなることが良くわかります。地球の影は空を見上げても見えませんが、そこに月が入ると影の中の光の状態を映すスクリーンになるんですね。明るい外側は地球のオゾン層を通ってきた青い光も混ざっていて望遠鏡や双眼鏡でながめるとシルバーグレーに見えます。写真で強調すると青っぽい色が浮き出てくるのでこの領域をターコイズフリンジと呼んでいます。そこから影の内側へ向かってオレンジ~赤へと変化するきれいなグラデーションはとても魅力的です。写真よりもやはり実際に眼で楽しみたいものです。今回は写真を撮るのに追われてろくに見ていなかった~ (T_T)

 この写真は食の最大の月を13秒間露光して撮ったものです。それでも暗かったので、Photoshopでさらに明るく見栄えがするように加工しています。これだけ長時間露光しなければならないとは想定外でした。月追尾モードで撮っているので天王星が伸びて写っていますね。肉眼で見ても感じましたが、今回は皆既中の月面が少し暗いと思いました。

 そこで、同じ望遠鏡で過去に皆既月食を撮影したことを思い出し、2014年10月8日の写真と比較したのが上の写真です。ちょうど皆既の始まりに今回と同じISO1600で2秒露光の写真があったのでそれを並べています。カメラが生成したjpeg画像で比較しています。この写真で見るかぎり今回の方が暗いですね。月の距離が今回の方が遠いのでその分暗くなるというのはわかりますが、他にカメラの違い、地球大気の透明度の違いなどの要因がどの程度影響しているのかは不明です。

 続いては天王星食(潜入)です。1分毎に撮影した約10分間の位置の合成写真になります。星の方は、星像が伸びず天王星の色がなんとか写る露出(ISO1600/1.6秒露光)を使用し、潜入時の月は明るく見えるように6秒露光のコマを使用しています。フィルムカメラ時代にはできない芸当ですね。撮影地では20時32分頃に潜入しました。この時、何かとあわてていて秒までは観測できずです。(^_^;)

 上の映像は18時~22時まで1分毎に撮影した写真を使って作成したタイムラプス動画です。個々の写真をPhotoshopのレイヤーに割り当て月の位置を合わせ明るさも微調整した上で、連番jpegで書き出します。それを動画編集ソフトで読み込み作成しました。いや~位置合わせにかなり時間がかかりました~。月を完璧に追尾してくれる赤道儀制御ソフトがあると編集が楽なんですけど、誰か作ってくれませんかね。(ひとり言)
 気をつけたのは月食進行の中で天王星食も表現できるようにしたことです。特に出現は皆既終了後だったので月に露出を合わせると天王星が写りません。しかし7段階にブラケット撮影した最もシャッタースピードの遅いコマには写っていましたので、それを挟みました。これで今回の概要をわかりやすく後世に伝えることができるのではないかと自己満足しています。(笑)

次に②の機材で撮った天王星食(潜入・出現)の動画です。
キャプチャーソフトはfirecaptureを使いました。ゲインは350、シャッタースピードは1/30s、記録形式はAVIです。天王星に対して月面が暗かったのでガンマを調節してやや明るくしています。見ていただいておわかりの通り、再生するとコマ落ちが激しく不規則な早送り状態になっています。リハーサルでの確認が不十分で設定に問題があったようです。反省。もう取り返しがつかないので仕方ありません。SNSを見ると潜入、出現のビデオ撮影は多くの方が成功しておられますね。次の機会があったらリベンジしたいと思います。

 最後に③の機材での固定撮影ですが、これは予定の時間に撮影ができないことが多々ありまして成果物として完成できませんでした。②の機材での天王星導入にトラブルが発生したこともあって、③の機材での撮影まで手が回らなかったのです。残念~。忘れないようインターバルタイマーを活用するなど操作を軽減する工夫が必要でした。これも反省材料です。それにしても一人で3つの機材をコントロールすることは無理がありますね。
 それでもお二人の天文ボランティアの方が手伝ってくださったので、少なくとも①の機材での撮影はしっかりと行えました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。そのお二人は参加者に対しての解説や誘導案内などもしっかりされていて、撮影オンリーの私が申し訳なくなるくらいの活躍ぶりでした。

 以上、今回の皆既月食・天王星食をまとめてみましたが、いかがだったでしょう。お天気も広い地域で良かったので実際にご覧になった方も多かったと思います。日常のわずらわしさを忘れ、宇宙の神秘にふれる絶好の機会ではなかったでしょうか。こういう食現象を見ると確かに天体は物理法則に従って運行しているんだという事が肌で感じられますよね。私もここに示したような写真やビデオを一定の記録として残せて良かったと思います。そして、これを見ていただいた方が何か新しい発見や理解をしていただけたらうれしいです。
 次回、日本で皆既月食の全過程が見られるのは、2025年9月8日(月)です。午前1時27分~4時56分という観測するにはつらい時間帯ですけれど楽しみにしておきましょう。(おわり)

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