春の怪物トリオ

 3月に入ると冬の星座が次第に西へ傾き、変わって春の星座が次々と南の空へ昇ってきます。1等星が多い冬の星座に比べて、明るい星が少ないため寂しい感じのする春の星座ですが、なかなか個性的な星座が揃っています。中でもギリシャ神話で有名な怪物星座が3匹寄り添って輝いているのをご存じでしょうか?これを私は「春の怪物トリオ」と呼んでいます。すでにこちらで「夏のおじさんトリオ」を紹介しておりまして(まだの方はどうぞお読みください)、その中の1人英雄ヘラクレス(星座はヘルクレス座)がなんと!これらの怪物を3匹とも退治しているのであります。あのヘラクレスをしてかなり手こずったという怪物たち。(1匹だけちょっと弱かったのですけど…)いったいどんな怪物だったのか、これからお話していきましょう。

 まずは、星座の配置・見つけ方について押さえておきます。

春の怪物トリオ(しし座、かに座、うみへび座)+からす座

 こちらの星座絵をご覧ください。怪物トリオとはしし座、かに座、うみへび座の3つです。しし座、かに座生まれの方は、えっ?!自分の星座は怪物だったの?と驚かれるかもしれませんね。安心してください。しっかり怪物です(笑)。そこにうみへび座が加わるのですが、これは全天一長くて面積の大きい星座で、怪物にふさわしいですね。からす座を付け加えたのは、うみへび座をたどる目印になるからという理由があります。プラネタリウムでもそうですが、絵が出るとそこにそんな星座があるという気になれますが、実際に星空で探すとなればなかなか大変です。星座の写真でたどってみましょう。

 3つの中で一番わかりやすいのは、しし座。何といっても1等星レグルスが胸に輝いていますので街中でもここにあるんだなとわかります。そこから上に「?」マークの左右反転した形(鎌に似ているので「ししの大がま」と呼ばれる)がつながっていてよく目立ちます。ここが頭から胸にあたり、レグルスの下には折りたたまれた前足があります。おしりの部分には直角三角形があって、ししの大がまとつなげば胴体が、下にのばせば後ろ足が出来上り!よくできていると思いませんか?星で姿が想像できる数少ない星座の1つです。
 一方、かに座を見てみると…どこがカニやねん?!という感じ。しかも星座の星はすべて4等星以下なので、目立ちません。はっきり言って街中で見つけるのは無理です。満天の星では中心部のプレセペ星団が肉眼でぼんやりした光のかたまりに見え、それを囲む4つの星がなんとか見えて、カニの甲羅となります。そこから足がのびるわけですが、このつなぎじゃカニに見えまへん。(~_~;) 私にはむしろキリンを横から見たように思えるのですが…みなさんはいかが?
 最後のうみへび座。かに座の下に頭の星があり、線のように結ぶと口を開けたヘビの顔に見えなくもない?!満天の星ではよくわかります。その下に少し赤っぽい2等星アルファルドがあってこれが心臓にあたります。そこから四角く目立つからす座の下の方までヘビらしくうねうねとつながりますが、暗い星ばかりでつなぐのは大変です。星の良く見えるところでぜひチャレンジして下さい。

 ところで、そもそもしし座がわからなければ、これらの星座を探せないので、その探し方を紹介しますね。

 たぶん誰でもわかる(はず?)北斗七星を使います。写真のように先っぽの2つをのばせば北極星が見つかるのは有名ですが、次の2つを北極星とは逆方向へずっとのばせば1等星レグルスにたどり着きます。これでしし座はOKですね。

 次に、かに座の見つけ方です。双眼鏡を使うのがおすすめです。

 しし座より西にあるふたご座とこいぬ座の明るい星から検討をつけます。街の中でも見える1等星レグルス、ポルックスの真ん中からややポルックスよりに、かに座の中心部プレセペ星団があります。また、レグルスとプロキオンを結んだほぼ線上にかにの足先の2つの星があります。ししの大がまの先端の星とカストルのほぼ中間にかにの足先の星があります。かに座は暗い星ばかりですが、満天の星の下、双眼鏡で見るプレセペ星団はすばらしいですよ。
 かに座まで見つかれば、あとはそのすぐ下にうみへびの頭。そして、アルファルドとからす座を目印にうみへびのからだをたどりましょう。

 さあ、お待たせしました。怪物のお話です。まずはしし座から。
 この獅子は、ギリシャのネメアの森に棲んでいた怪物だとされています。怪物エキドナ(蛇女)とオルトロス(2つ頭の怪犬)の子で、あの有名なスフィンクスとは兄弟にあたります。スフィンクスはなぞなぞを旅人にふっかけて、答えられなければ食い殺すという変な怪物。だからこのししも、?の裏返しの星の並びを持っているのかと妙に納得していまいます(笑)。ではどんな怪物なのかというと、普通のライオンよりずっと体が大きくて皮膚は刃物を通さないほど固く、おまけに人や家畜を次々に襲う凶暴さを持っていたということです。(なぞなぞは出題しないようですネ。)

ピーテル・パウル・ルーベンス「ネメアーの獅子と戦うヘラクレス」
1635年頃

 ミュケナイ王エウリステウスの命令を受けたヘラクレスは、この怪物を退治することになりました。ヘラクレスは自慢の弓矢と棍棒を携えて待ち伏せします。するとジャ~ン!巨大な怪物が姿を現しました。ヘラクレスは渾身の力を込めて弓を引き絞り、矢を放ちます。その矢は見事に命中!しかし、かたい皮膚に跳ね返されてしまいます。何本も放ちますが刺さりません。それに気づいた化け獅子は猛然とヘルクレスに襲い掛かります。ヘラクレスは向かい来る獅子の頭をめがけて棍棒を思い切り振り下ろしました。「エイッ!」「ゴーン」「ギャー!」(※想像してください)。さすが怪力のヘルクレス!一撃を食らった獅子はたまらず近くの洞窟に逃げ込みました。ところが、硬い棍棒は衝撃で真っ二つに折れていたのです。(どんだけ石頭やねん!)

ピーテル・パウル・ルーベンス「ネメアの獅子とヘラクレス」1615年
※神話には出てこないヒョウもやっつけた?獅子の顔コワイ

 ヘラクレスは武器を持たずに獅子を追いかけ洞窟に入ります。逃げられないように大きな岩で洞窟をふさぎ、覚悟を決めた獅子とのデスマッチ!怒り狂う獅子と素手で組み合います。獅子の鋭い爪が皮膚に食い込み引き裂きます。ヘラクレスは痛みに耐えながら体を入れ替え、獅子の首に腕を回し力を込めました。さすがに敵もさるものひっかくもの。そう簡単にはくたばりません。なんとか振りほどこうと暴れまわります。もしここでヘラクレスが腕をはなすと鋭い牙の餌食になりかねません。命がけの攻防がなんと3日3晩続きました(どんだけ~)。
 その結果、最後まで腕をはなさず締め続けたヘラクレスがかろうじて勝利をものにしました。ヘラクレスはヘロヘロです。しばらく休んだ後、彼は獅子の爪で皮をはいで持ち帰りました。その後ヘラクレスはこの獅子の硬い皮を鎧代わりに好んで身につけたと言われています。大神ゼウスは彼の武勇を称えて獅子を天に上げ星座にしたということです。

 なるほどぉ~、化け獅子の星座はこうしてできたんですね。ただ、冷静に考えるとあまり怪物っぽくはありません。皮膚の硬い巨大ライオンという特徴のみで怪物としての印象はあまり強くないのが正直なところ。
 でも次のうみへび座の怪物はかなり強烈ですよ。お話の中にかに座の怪物も出てきます。では、どうぞ!

アントニオ・デル・ポッライオーロ「ヘラクレスとヒュドラ」1475年頃
※化け獅子の毛皮を身につけていますが、なんちゅうつけ方?!(笑)

 ミュケナイ王エウリステウスのヘラクレスに向けた次なる指令は、レルネーの沼に棲むヒドラ退治でした。ヒドラとは9つの頭を持つ巨大なヘビで、最強の毒を持った恐ろしい怪物です。たとえば口から吐く息を吸ってしまったり、ヒドラが寝ていた場所を通ったりするだけで死んでしまうと言われていました(ほんまかいな~)。ヘラクレスは甥のイオラオスを連れてこのヒドラ退治に向かいました。
 レルネーの沼に近づくとヒドラの毒にやられたとみられる死体があちこちに転がっていました。ヘラクレスたちは布を口にあてながら進んでいきます。そしてヒドラの棲み処らしい場所を突き止めると、そこにめがけて火のついた矢を打ち込みました。すると9つ頭の怪物ヒドラがついにその姿を現しました。ヘラクレスは自慢の棍棒で次々にヒドラの頭を叩きつぶしていきます。ところが、つぶれされた頭からは何と!それぞれ2本の首が生えてくるではありませんか!
(なんでやねん!)

フランシスコ・デ・スルバラン「ヒュドラと戦うヘラクレス」1634年
※よく見るとヘラクレスの足元にザリガニのようなものが…これが怪物?

 これはやっかいです。つぶしてもつぶしても死なないばかりか頭が増えていきます。「なんとかしてくれ~」さすがのヘラクレスもパニックになり、イオラオスに助けを求めました。イオラオスは持っていた松明の火をヒドラの首に押し付けて焼くことを思いついたので、やってみるとそこからは生えてこなくなりました。こうなればヘラクレスにも力が湧いてきます。増えてしまった首を次々はね飛ばしては、イオラオスがすかさずジューっと焼く。この作戦が上手くいき、とうとう最後一本の首を残すばかりとなりました。しかぁ~し。この首はヘラクレスがどんなに力を込めて叩いてもビクともしません。実はこれ、決して死なない不死身の首だったのです(どないやねん!)。倒すことができないと悟ったヘラクレスは、巨大な岩をヒドラの首の上にのせてそこから逃れられないようにして始末しました。さすが怪力ヘラクレスのなせる業ですね。そして、女神アテナの助言により、ヒドラの体を切り裂いて中から毒の体液(胆汁らしい)を取り出したとのことです。その後、ヘラクレスはこの毒を塗って必殺の矢を作り、ここぞという戦いに使用しました。実はこれが元で数々の不幸な事件が起こるのですが、それはまた別の機会に…。

「レルネのヒドラと戦うヘラクレスとイオラオス」BC530年頃
※ヘラクレスの足元にちっちゃいカニがいます。これも怪物に見えん!

 そうそう、かに座の怪物の話をすっかり忘れていました。(スミマセン)
 ヘラクレスとヒドラが激闘を繰り広げている時、ヘラクレスを憎んでいた女神ヘラが彼を亡き者にしようと怪物カニを差し向けておりました。女神の命を受けたのはカルキノスというカニの怪物でヒドラと同じくレルネーの沼に棲んでいたのです。カルキノスはヒドラと戦うヘルクレスの足元に近づき、巨大なハサミで彼の足を挟もうとしました。が、そこはヘラクレス。このカニにいち早く気づき、「ええいっ!邪魔だぁ~、おぅりゃぁ~(グシャ!)」(※想像してください)…という感じで甲羅の真ん中を思いっきり踏んづけたのです。。哀れカルキノスはヘラクレスに少しのダメージも与えることなく一瞬で絶命したのでした。チ~ン!かに座生まれの方…ご愁傷様でございます。

 かくして、ヒドラはうみへび座に、カルキノスはかに座になりました。しかも、しし座の近くなんですね。ヘラクレスに退治された怪物トリオが春の夜空に身を寄せ合っているというわけです。「いやぁ~、ヘラクレスの強さはハンパなかったねぇ~」などと怪物同士で慰めあっているのかもしれません。

 いかがでしたでしょうか?春の怪物トリオ。
 えっ? 「かに座のカニって最悪じゃん! 星も暗いしぃ~」。
 確かに星座の星や神話を聞くとかに座生まれの方はガッカリされるかもしれません。でも、プレセペ星団があるじゃないですか!双眼鏡でその美しさに触れて気を取り直してくださいね。(踏みつぶされて泡を吹いている様子に見えるなんて決して言いませんから…オイオイ)
 えっ? 「うみへび座なのに沼に棲んでるやん?!」
 おっしゃるとおり!元々古いギリシャ語のヒドラはみずへびの意味があったらしいのですが、どこをどう間違ったのか、うみへび座(学名;Hydra)になっております。今からでもみずへび座にしたいところですが、みずへび座(学名:Hydrus)という南天の星座(エリダヌス座の南に位置しています)が別にあるんですねこれが。ややこしい。

 というわけで、ツッコミどころ満載の「春の怪物トリオ」、これにておしまいとさせていただきます。(終)

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