かみのけ座は5月の午後9時前後、ほぼ頭上に見られます、知名度はきわめて低く「そんな星座あったの?」と言われることが多いです。しかし、星好きな人たちからは結構注目されている一風変わった星座でもあります。かく言う私も個人的に気に入っている星座なので、プラネタリウムを解説していた時は積極的に紹介したものでした。
今回はそのかみのけ座の魅力を紹介していきたいと思います。アピールポイントは次の3点!!
① 肉眼で見た時に微光星が集まっていているのがわかり、それを双眼鏡で見ると非常に美しい。
② この星座付近の領域は遠くの銀河がたくさん見える。
③ 実在した女性の髪の毛が元になってできた星座であり、それにまつわるお話が美談である。
では、順に紹介していくことにしましょう。
かみのけ座の見つけ方と特徴
かみのけ座を見つけるためには、できるだけ星が良く見える環境で5月の午後9時前後に南の空を見上げます。最初に1等星のアークトゥルス、スピカ、2等星のデネボラからなる「春の大三角」を確認して下さい。そして、3等星のコルカロリを見つけます。この4つの星を結んでできるひし型に近い形が「春のダイヤモンド(おとめ座のダイヤモンド)」です。ここまで見つけられれば、あとは簡単!コルカロリとデネボラと中間付近に目を向け、暗い星が集まっているようすを確認しましょう。そこからアークトゥルスとデネボラの中間あたりまで広がる領域がかみのけ座です。
星でかみのけの形は見えませんのであしからず。
散開星団 Mel.111
次にかみのけ座の暗い星の集まりに注目してみましょう。写真をご覧下さい。 これは mel.111(メロッテ111)という散開星団です。5~6等星を中心に30個ほど集まっていて、約270光年と近距離にあるので肉眼でも個々の星が見分けられるほど大きく広がっています。倍率の低い双眼鏡では、視野にすっぽりとおさまってすばらしいながめです。双眼鏡で見ると暗い星が明るく見えるので、例えば口径5cm7倍の双眼鏡で見ると、視野の中に20数個もの星が肉眼で見る1~2等星クラスの明るさで輝いて見えることになるわけです。う~ん、素敵だ。 (´ω`*)
目立つ星がなく散開星団が主体の星座って、他にはありません。かみのけ座はかなり特異な星座だと言えますね。
宇宙ののぞき窓
さて、このかみのけ座付近は先の写真にも印をつけたように、銀河系の北極方向(銀河北極)にあたります。銀河系の赤道方向には天の川があって多数の星やガス・チリが重なり合っているため、見通しが悪くなっています。一方、天の川から90度離れた極方向は重なり合う星なども非常に少ないため見通しが良く、遠くの銀河が非常に良く見えます。それ故、この方向を「宇宙ののぞき窓」と呼んだりします。実際にこの方向の約3.2億光年かなたには1000個以上の銀河の集団(かみのけ座銀河団)が見つかっています。これらのほとんどは小型望遠鏡でも見つけられないほど暗い存在です。一見何もないように見える暗い天空の領域にもはるか遠くの天体が潜んでいるんですね。遠くの宇宙をしらべるために、かみのけ座はとても魅力的なんです。
さあ、それではいよいよかみのけ座の神話にうつりましょう。いやぁ~これがとても良い話なんですよ。セクシー系であったりバイオレンス系な話が多い中で、お子さまにもほとんどオブラートに包まずご紹介できる貴重な星座神話なのであります。しかも実在した人のお話という異色の星座神話!えっ?神話とは言えない?まぁ細かいことは気にせずお話をお読み下さい。
かみのけ座の神話
舞台は紀元前3世紀のエジプト。国を治めていたプトレマイオス3世は恩恵王 (エウエルゲテス) とも称され、優れた統治を行ったことで有名なファラオです。妃はベレニケ2世。彼女の髪は琥珀色に輝き、その美しさは広く国外にも知れわたるほどでした。
ある時、シリアとの戦いが長期化しエウエルゲテスも自ら戦地へ赴きました。かなり厳しい戦いであることが予想されていたので、ベレニケはとても心配になりました。それでアフロディーテの神殿へ向かい王の無事を懸命に祈りました。その際、無事に戻ってきたらこの髪を捧げると神へ誓いをたてたのでした。やがてシリアに勝利して王が凱旋すると知らせが届きました。喜んだベレニケは惜しげもなく自慢の髪をバッサリと切って約束通り祭壇に捧げます。帰ってきたエウエルゲウスはベレニケの髪を見て驚きましたが、そのわけを知って彼女の深い愛を感じたのです。
さてその翌朝のこと。なんと神殿からベレニケの髪が無くなるという事件が起きました!皆が神殿を1日中探し回りましたが見つかりません。報告を聞いたエウエルゲウスは怒りまくり神官たちを呼び出します。そして、まさに厳しい処分が下されようとするその時、宮廷天文学者のコノンがエウエルゲウスに進言しました。彼は夜空の一角を指さしてこう言いました。「ご覧下さい。ベレニケさまの美しい髪は神殿に置いたままにしておくのがあまりに惜しいので、神々によって天にあげられたのです。」これを聞いたエウエルゲウスとベレニケは大変満足し、神官たちも処分されることはなかったということです。こうしてかみのけ座は誕生しました。微光星が集まって光っているのは、ベレニケの美しい髪の輝きを表しているのです。
いかがでしたでしょうか? この話、ベレニケの愛情あふれる行動も素晴らしいのですが、天文学者コノンの機転が抜群ですよね。かみのけ座の星々は暗くて目立たないため、普段から星空をよく観察していないと気付かれることのない存在だったと思われます。それをベレニケの美しい髪になぞらえて星座になりました!と言って納得させるとは、天文学者のコノンさん、ただ者ではありません!これで神官たちの命も救われたのですから…まさに神対応とはこのことです。それだけにどこまで真実が盛り込まれたお話なのか、とても気になりますね。皆さんはどう思われますか?
ちなみに、このお話だけだとベレニケさんはとても素敵な良くできた人で幸せな人生を送ったようにに思えますけれど、実は前の夫(つまりエウエルゲウスは再婚相手なのです)を殺しています。(´゚д゚`)
その理由は自分の実の母親と夫が不倫をしたということなので、同情する余地はありますが、それにしても強烈です。しかも、ベレニケはエウエルゲウスが亡くなった後、家臣と実の息子に暗殺されています。こんなの、とてもプラネタリウムでは紹介できません。(;^_^A
美談の裏にはこのようにバイオレンスな世界があったのですね。人間ってコワイ…。
考えてみれば、現代もいまだに戦争が起こって多くの人々が苦しんでいます。人類もいいかげん精神的に進化して愚かな行為を撲滅せねばいけません。早く愛と平和に満ちあふれた世界が訪れるよう願いたいものです。(おわり)