月面に浮かぶ「ス」の文字 発見!

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これが月面スだ!

 2022年12月3日夜、いつものように月の拡大撮影をしているとPCのモニタ画面に気になる形が目に入りました。それは月の欠け際に浮かぶカタカナの「ス」の文字だったのです。しかもかなりきれいに「ス」の形になっています。月面にはクレーターが数多くあって丸い形には慣れているのですが、このように直線が組み合わされた文字が見えるというのは驚きにも似た不思議な感覚です。

 位置はロンゴモンタヌスの少し西にありました。おそらく、いつも見えるようなものではなく、有名な月面Xなどと同じように明暗境界線付近にきた限られた時間に見えるものだと考えられます。そこで、私はこれに「月面ス」と名付けることにしました!月面Xに比べると何とも締まりのない気が抜けそうな名前ですね。(^_^;) 人に紹介するときには「月面っス!」という方が勢いがあって良いのかもしれません。(知人のアイデアです)

【追記_2023.2.3】
「月面ス」は、2021年3月にぬんま氏(@DldpKOzvfKLpzsc)が最初にTwitter上でツイートされたということを知りました。私が最初ではなかったようです。

 そうこうしているうちに、以前も同じ「ス」の形を見たことがあったのでは?とあいまいな記憶が湧いてきました。そこで過去に撮影した写真を調べたところ2例見つけることができました。それが次の写真です。

 また、他にも気づいている人がいるかもしれないと思いましたのでツイッターに投稿してみたところ、自分も撮れていたと写真添付で返信をいただきました。Cosmo_Birds_Akira_Japan39(@CJapan39)さん、kurichan otukimi(@k_otukimi)さん、P.O.D.(@Powerofdreams01)さんのお三方です。本当にありがとうございます。みなさんに写真掲載のご許可をいただきましたので、以下にご紹介いたします。

kurichan otukimi(@k_otukimi)さん撮影
2021年3月23日 18時30分
Cosmo_Birds_Akira_Japan39(@CJapan39)さん撮影
2022年6月9日 22時17分
kurichan otukimi(@k_otukimi)さん撮影
2022年12月3日 20時44分
P.O.D.(@Powerofdreams01)さん撮影
2022年12月3日 21時26分

 というわけで、月面に「ス」の文字が見えるという事象は私のたわごとではなく現実に起こるということがおわかりいただけたかと思います。

月面ス:場所の特定

 ところで、いったい月面のどこが「ス」に見えているのでしょうか? 気になったので調べてみました。
 使用したのはNASAルナー・リコナイサンス・オービタ・カメラ(LROC)の観測データーを元に作成された地図「LROC QuickMap」です。https://quickmap.lroc.asu.edu/ で公開されていて閲覧することが可能です。
 これを見てみると、概略の位置はロンゴモンタヌスとシラーのほぼ中間にあることがわかりました。

LROC QuickMap より

 さらに「LROC QuickMap」と実際に撮った写真を見比べてみると、どうやら小さなクレーターBayer TやBayer M、Bayer A近くの盛り上がった部分であるようです。(写真参照)この写真に入れたピンクのラインあたりが太陽光によって極めて浅い角度で照らされたとき、「ス」の文字が浮かび上がって見えるわけですね。それにしても偶然の産物とはいえ面白いものです。

拡大して確認して下さい!

月面スが見える条件

 では、この月面スが見える条件を確かめてみましょう。
 それには月面Xでの方法と同じように地形の中心位置で地平線からの太陽高度がいくらだったかを検証するのが有効だと思います。私の写真と提供していただいた写真の撮影日時が分かっていますので、それらを元に計算してみます。

 まず、月面スの中心位置(先の写真参照)の月面経度pと緯度qを先のLROC QuickMapより求めると
【月面スの中心位置】 p=329.60° q=-50.32°
 次に、撮影時刻の太陽の月面余経度Yと月面緯度bを調べます。私はこの値をプラネタリウムソフト「ステラリウム」から求めました。
 そして、月面スの中心位置(p、q)での太陽高度Hを次の式で求めます。
  sin(H)=sin(b) sin(q) + cos(b) cos(q) sin(Y+p) …{天文年鑑2022より}

 こうして計算した値をまとめると【表1】のようになりました。

 表1を見ると、太陽の月面余経度が30度前後、そして月面スの中心位置の太陽高度が0度前後の時の写真であることがわかります。次に、それぞれの月面スの画像を並べ、中心位置の太陽高度を記入して比較してみました。

丸数字番号は表1に対応しています

 これを見ると①では太陽高度が最も低く「ス」の文字が若干途切れていることがわかります。また⑥、⑦のように太陽高度が比較的高いとBayerAやBayerEのクレーターの縁が見え始めています。傾向としては当然ながら太陽高度が高くなるにつれて周囲の地形が浮かび上がってくることになります。これらの写真を見る限り「ス」と認識できるようになるためには、月面スの中心位置における太陽高度がおよそ-0.5度~0.5度くらいになるのではないかと考えられます。ただし、写真の画像は露出や階調の調整などによりすいぶん明るさが変わりますし、望遠鏡を実際のぞいた時の印象とずれる可能性もありますので、この数値がどれだけ妥当なものかはよくわかりません。今後、観測数が増えるとはっきりしてくると思われます。
 とりあえず現時点で言えることをまとめると次のようになります。

【月面スが見える条件(仮)】
① 月齢が9~10くらいで太陽の月面余経度が30度前後
② 月面スの中心位置での太陽高度がおよそ-0.5度~0.5度

【追記】
その後の観測で、見やすいのは月面スの中心位置での太陽高度がおよそ-0.5度~-0.4度であることがわかりました。

月面スが見える日時の予報(2023年)

 それでは前述した条件が妥当と仮定して、2023年に月面スが見えそうなを日時を予報してみたいと思います。
 まずは、夜に太陽の月面余経度が30度前後になる日を探します。そして、1時間ごとに月面スの中心位置における太陽高度を計算して、およそ±0.5度の範囲におさまるものをピックアップしました。その結果が次の表2です。

 黄色の網掛けは条件の範囲におさまっており可能性の高い日時になります。ただし、多少時間がずれて見える可能性がありますのでその点はご了承下さい。また、月面Xは空が多少明るくても望遠鏡で見えましたが、月面スは見えるかどうかにも注目したいところです。
 この予報によれば、2023年は1月31日の条件が良さそうです。天気が良かったら、長時間撮影したり望遠鏡でのぞいたりして、時間変化を記録したいと思います。うまくいけば「ス」に見える最適な太陽高度の条件がわかるのではないかと期待しています。
【追記_2023.2.3】
 1/31は幸いにも快晴に恵まれ、しっかり観測できました。その報告はこちらをご覧下さい。
【追記_2023.6.24】
 最新の予報はこちらに掲載しています。

月面スの見え方

 では実際に月面スは望遠鏡でどのように見えるのでしょうか?それを予想するために有名な月面Xと写真で比較してみることにしましょう。次の画像をご覧下さい。

 この写真は同じ望遠鏡とカメラで撮影した月面Xと月面スを並べたものです。比較してみると月面Xとサイズ的にはほぼ同等といえるでしょうか。しかし月面Xの方がより明るく目立っているように見えます。あくまで写真での比較なので、実際に望遠鏡をのぞいた時にどれだけの差があるかは私もPCモニター上でしか見ていないため何とも言えません。でも月面Xは小型の望遠鏡でも100倍程度の倍率ではっきりくっきりわかりますから、月面スは月面Xより多少暗いとしても100倍程度の倍率で見れば十分確認できるのではとないかと思います。
【追記_2023.2.3】
 1/31に15cm屈折望遠鏡の100倍で、はっきりくっきり観察することができました!

 しかし、月面スは月面Xと比べると大きな問題が1つあります。それは天体望遠鏡で見ると逆さまに見えたり(直視の場合)、左右が反転して見えたり(天頂ミラー使用の場合)することです。月面Xの場合は逆さまに見えようが、左右反転して見えようがXですが、月面スはスに見えないことになります。

倒立像では「と」に見えますね!

 したがって天体望遠鏡で月面スをスに見るためには正立ミラーを使用する必要がありますが、比較的高価で入手しにくいのがつらいところです。もし、正立ミラーが用意できなかったら、「ス」になるよう脳内変換して下さいね (笑) 。

 以上、月面スについてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
 有名な月面Xは2004年8月にカナダのアマチュア天文家が気づき報告して以来広く知られるようになったと言われています。その後、月面LOVE、最近ではゲンコツに見える月面グーなんかが話題になったりしています。月面も光の当たり方でいろいろな景色・形を私たちに見せてくれるのですね。月面スもそのうちの一つ。カタカナを使う日本人しか通用しないかもしれませんが、望遠鏡をのぞいて「ホンマや!」と口に出す人が増えれば楽しいと思いませんか?
 今後も月面スを追いかけて普及に努めたいと思います。(^_^;)
 みなさん、どうぞよろしくお願いいたします。(おわり)

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