2024年10月初め頃まで明け方の東空に見えていた紫金山•アトラス彗星ですが、10月12日頃から夕暮れの西空に見えるようになってきました。13日、14日と連続して観測できたので報告したいと思います。
さて、明け方の時は写真には写るものの、肉眼はおろか双眼鏡でも見つけるのが難しい状況でした(その時の様子はこちら)。それ故、夕暮れに現れる彗星はどんな姿を見せてくれるかとても楽しみにしていました。図のように彗星は日に日に高度を上げますが、明るさは暗くなっていきます。とりあえず13、14日が勝負と考えていたところ、幸いなことに両日とも晴れてくれました。
【13日:万灯呂山展望台にて】
この日は日没後の高さがかなり低いので、出来るだけ西の方角が開けている場所で見るのが重要です。そこで選定したのが京都府綴喜郡井手町の万灯呂山展望台。標高300mと高くはありませんが、西の眺望は抜群で京都市南部から精華町あたりの市街地を見下ろせます。夜景がとても美しく見えるにもかかわらず意外と知られていない隠れスポットです。ただ、駐車場から50mほど機材を運ぶ必要があったり、展望台までの道が狭く車の離合困難な場所が多いのが玉に瑕ですが、贅沢は言えません。
いつもの星仲間Tさんと合流して展望台に着いたのが17時頃。さっそく場所を確保し機材を設置。そうしているうちに続々とカメラ&三脚を持った人が集まって結局10数名くらいになったでしょうか。やがて赤い太陽が沈んでいきました(日入時刻は17時26分)。18時前からきれいな夕焼けが見え始め、みなさん撮影モードへ突入です。私は105mmレンズで三脚固定のタイムラプス撮影とAZ-GTiX経緯台に双眼鏡と70-200mmレンズを載せて観望と共に経緯台追尾の彗星撮影という2台体制で臨みました。AZ-GTiX経緯台で自動導入をかけると18時前には70mm15倍の双眼鏡で彗星の核とコマをとらえました。時間の経過とともに上に伸びた尾が見え始めます。
動画は18時08分頃から40分間、105mmノートリミング90倍速のタイムラプスです。私が想像した以上に長い尾が写っています。18時15分頃だったでしょうか、気がつくと肉眼でもけっこうな長さの尾を伴った彗星が見えたので感激しました。肉眼で尾のある彗星をしっかり見れたのは1997年のヘールボップ彗星以来だと思います。一緒に行ったTさんともこんなに見えるとはスゴイですね!と感動を分かち合いました。
上の写真は、105mmレンズで連写した中からのピックアップです。
夕焼けや街灯りとのコラボが良いですね。明るい彗星なので絵になります。
200mmレンズで撮影した上の2枚の写真は周辺減光の処理がうまくいかなかったので少しトリミングしています。1度のスケールを入れていますが、これを見ると尾の長さは5度近くあるでしょうか。薄暮の空、かすみの影響などなければおそらくもっと伸びている姿が見られたことでしょう。逆にこの条件でここまで見えるなら大彗星と言って全く問題なさそうですね。
18時半を過ぎるころから少しずつ肉眼でわかりにくくなってきました。写真は18時35分、低空の濃いもやの中に入る前のものです。18時40分には双眼鏡でも見えなくなってしまいました。地平線に近い山の端へ沈んでいくようすを撮りたかったのですが残念!まわりのカメラマンもこの頃から次々引き上げていきました。この日はこれにて終了、私とTさんも機材を片付けて帰路についたのでした。
【14日:木津川堤防にて】
14日は前日に比べて雲の多い天気予報でした。それであまり期待しないでいたのですが、夕方は意外に晴れ間が広がっていました。これはもしや?!ということで、近くの川の堤防へ出かけようと決意!…この日は一人ぼっちの観測となりました。
前日に肉眼で彗星を確認できたので自動導入が可能なAZ-GTiX経緯台は使わないことにしました。
昨日より彗星の位置が高く尾も長くなりそうなので70-200mmレンズを70mmにしてタイムラプスを、拡大用には微動ハンドル付き経緯台に105mmを載せて手動で追いかけながら撮ることにしました。
動画は18時01分頃から約40分間、70mmノートリミングの120倍速タイムラプスです。この日の現地での日の入時刻は17時25分。そして動画からわかるようにこの日も18時半頃から彗星は厚い雲の中へ突入していくのでした。残念~!
この写真は70mmレンズの連写の中から比較的雲にじゃまされなかった時のものです。撮影時刻は18h25mで、彗星の高度は約9度。70mmノートリミングの画角ですから彗星の尾も明らかに前日より長く見えていますよね。
105mmレンズの方はカメラのモニタにバッチリ映るので、構図を確認しながら適当に撮影していきました。時間が経つと当然ズレていきますが、やはり微動ハンドル付き経緯台は普通のカメラ三脚に比べて使い勝手が良いですね。写真は雲に入る前のショットで、適当にトリミングしています。尾の長さは10度近くになるでしょうか。
ところで、SNS(X)で上がっていたこの日の彗星の写真を見ると、素晴らしいものが多数ありました。その中に尾とは反対側に鋭く伸びた直線状のラインが写っているものがありましたので、私の写真にも見えるかと思い彗星付近に雲の少ないものを選んでかなり強調してみました。
すると、まっすぐな細いラインがかすかに浮かび上がってきましたよ。調べてみるとこれはNLS(Neck Line Structure/首軸構造)と呼ばれるものらしいですね。「彗星軌道平面を地球が通過するとき現れる鋭い直線状の構造で、彗星核から放出されたダストによって形成されている」とのことで、一旦彗星核から放出されたダストが核付近の軌道面上に集まることで見られるようです。地球が彗星の軌道面上にくることが見るための条件なんですね。
彗星の軌道と地球の位置関係をアストロアーツの天文ソフト「ステラナビゲーター」で作図してみると、確かに14日は図のように地球が彗星の軌道面を横切ろうとしています。15日も地球は彗星の軌道面にかなり近いことがわかりますね。私は撮れませんでしたが、SNSに投稿された15日撮影の写真にもこの構造が写っているものがいくつもありました。
というわけで、13日14日の撮影のようすと成果をご紹介しました。大気の透明度抜群の条件下ではないものの、肉眼で尾を伸ばした彗星の雄姿を見ることができたのは大変良かったです。夕焼けや夜景と共に楽しめたのも明るくなってくれたからこそですよね。明け方に追いかけた時には悔しい思いが残っていましたが、おかげさまで報われました。
この彗星が戻ってくるのは8万年後と言われたり、戻ってこないよと言われたりしていますが、どちらにせよ一期一会の姿になるので、深く記憶にとどめておきたいと思います。(おわり)