2023.1.31 月面スの観測

【はじめに】
 「月面ス」とは月齢9~10頃の限られた時間にだけ、欠け際の一部にカタカナの「ス」の文字が浮かんで見える現象のことです。その場所や見える条件などは、すでにこちらの記事でくわしく書いているのでご興味ある方はご覧下さい。
 さて、その記事の中で2023年における暫定的な予報をしており、その最初が1月31日でした。2023年では最も条件が良いと思われるタイミングだけに晴れてほしいと願っていたところ、おかげさまで安定した快晴に恵まれました。「月面ス」の撮影および観察で一定の成果が得られたのでここにご報告したいと思います。

月面スの位置(2023.2.1 0:25に撮影)*拡大してご覧下さい

 今回の観測目的は、「ス」の地形の中心位置における太陽高度が何度の時に「ス」の見え方・写り方がどう変化するかを調べることです。また、写真に写るイメージと望遠鏡をのぞいた印象に差があるのかないのかもチェックしようと思いました。これらを調べることで、今後のより正確な予報につながると考えています。

【観測の結果】
 撮影は20時~24時まで30分毎に行いました。その結果が以下の写真です。

スの右隣にある大きなクレーターは ロンゴモンタヌスです

 望遠鏡は25cm反射(タカハシμ250)に2倍エクステンダーを装着し、ZWO ASI174MM(モノクロCOMSカメラ)で1500フレームの動画を撮像しました。それぞれの動画の画像処理はAutoStakkert3やPhotoshopで同様に行っています。
 そして、それらの画像をトリミングして並べ、変化がわかりやすいよう組写真にしたものがこれです。ご覧の通り、徐々に「ス」が現れ、やがて周りの地形も目立ってくるようすがわかります。「ス」の形は22:00前後がわかりやすいでしょうか。

 ところで、この写真を見た外国の方から「ス」というのは「髪をたなびかせ走っている人の姿」のことか?とのツイートがありました。「ス」の右上が頭で、手を横一文字に広げて右の方へ走っていくピクトグラムのような人の姿です。そう言われればそう見えますね (笑) 名付けて「月面ランナー!」
「月面ス」は日本以外では通用しませんが、「月面ランナー(Moon Runner)」なら国際的に通用しそうです。天頂ミラー使用時にも左右逆になるだけで問題なしですね!

 続いて、各時刻に望遠鏡で観察したイメージを表にまとめました。それぞれの時刻の「ス」の地形の中心位置における太陽高度も併記しています。(太陽高度の計算についてはこちらの記事で説明していますのでご参照下さい。)

表:各時刻における「ス」の中心位置における太陽高度 と 望遠鏡で見る「ス」の印象

 望遠鏡は15cmの屈折に正立ミラーを装着し100倍の倍率で観察しました。20:00頃までほとんど見える気配がなかったので予報が外れたかと焦りました(^_^;)。けれど20:30頃に「ス」らしきものが文字通りスッと見え始め、最初はやや暗くて途切れがありましたが、時間と共につながり明るくなってきました。21時過ぎから23時前までしっかり「ス」の形がわかりました。23時頃から周りの地形に太陽光が当たり始め、「ス」の形が目立ちにくくなりました。そして、24時には100倍の視野ですぐに見つけられないほど周りに埋もれるような状況でした。

【考察】
 今回の望遠鏡による観察の結果、「ス」がきれいに見えるのは「月面スの中心位置での太陽高度がおよそ-0.5度」のあたりだと感じました。こちらの記事では「月面ス」が見える条件の一つに「月面スの中心位置での太陽高度が-0.5度~0.5度」としておりましたが、太陽高度が 0度を超えると周りの地形が見え始めてしだいに「ス」が判別しにくくなりました。ただし、もっと小口径の望遠鏡では15cmに比べて光量が少ないので、この条件が少しずれるかもしれません。次の機会では、小口径の望遠鏡でどう見えるのかも調べたいと思います。
 一方、写真の方ですが、同じ時刻で比較すると望遠鏡で見るよりも暗めに写るように感じました。写真は明るさコントラスト等の調整のしかたにも大きく影響されるので一概に言えませんが、太陽高度が 0度~0.5度くらいの方がクッキリ写りやすいように思います。特に月の全景写真として撮る場合は、欠け際が暗くなりがちなので太陽高度がある程度高めの方が写りやすいでしょう。また、「月面ス」は月全体からすればかなり小さいので、できるだけ拡大して撮影する方が良いでしょう。

【次回の予報 その他】
 というわけで、今回2023年1月31日の観測から今後の予報に役立つ情報が一定得られたように思います。
 次回見られそうなのは2023年4月30日。望遠鏡観察時のピークはおよそ18時頃と予想していますが、その時刻は太陽がまだ沈んでおらず空が明るい状態です。そんな中で果たしてどういう風に見えるか確かめたいところですね。その後19時、20時と空が徐々に暗くなる中での見え方にも注目です。この時間帯には写真も積極的に撮影していきたいと思います。

 「月面X」は空が日没前で明るくても見たり撮影したりすることは可能でした。「月面ス」は「月面X」より少し線が細く暗めではないかと写真から感じているので、空が明るい状態での見え方・写り方には興味があります。私も当日晴れたら、日没前から観測したいと考えています。全国におられる天文有志の皆様にもぜひ観測していただき、ご報告してもらえたら幸いです。私の方からは Twitter(@oldspica)でも予報や観測結果を発信していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 【追記】4/30天候が不安定でしたが、何とか観測できました。(その記事はこちら

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