月観望用の望遠鏡を考えてみた

 月の観測と言えば、ここ数年は撮影に主眼を置いておりました。月の地形を見るのは、カメラのモニタかパソコンのモニタで見るのがほとんど…。それでもシーイングが良い時には撮影後に望遠鏡をのぞいたりします。やはり眼視は良いですね!モニタ画面で見るように黒潰れしたり白飛びしたりザラついたりすることなく、とても美しく見えます。特に欠け際の光と影のコントラストは眼視ならでは。暗いところから明るいところまで幅広くカバーする肉眼のすばらしさをあらためて感じます。月面の写真やビデオを撮っても望遠鏡をのぞくことで得られる感動はなかなか再現ができません。

 本心では、眼視でじっくり時間をかけて月の地形を楽しみたいと思っているんです。でも、なかなか踏み切れない理由がありました。

天文台の内部/いろんなものが置いてあります

 一つは姿勢のつらさ。私の狭い天文台には防湿庫や棚、除湿器、コタツまで置いてあるので身体の置き場に制限が出てしまい、安定した姿勢が取り辛いのです。できれば双眼装置でじっくり眺めたいところですが、月の方向によってはのぞけなかったり、台に乗らないと無理だったりします。なので、もっぱら正立ミラーを介して単眼でチラ見する感じになってしまいます。それでも中腰を余儀なくされたり、体をひねってみたり、けっこう大変な状況です。

  もう一つは眼の問題。元々強度の近視で乱視な上に(いざという時はコンタクトレンズを装着)、数年前から白内障の自覚症状が加わってきたのです。乱視でクッキリ見るのが難しいところに白内障でにじんで見える部分があって、残念な気持ちになることが多くなりました。そのせいで望遠鏡をのぞきたいという意欲が減退したきたように思います。
 眼医者さんに相談すると白内障の手術で近視&乱視対応の眼内レンズを入れるとずいぶんマシになるはずと言われまして、もうこれは年貢の納め時。コンタクトレンズの長時間装着も年のせいかきつくなってきたこともあり、思い切って手術をすることに決めました(年明けの予定)。これで以前のようなクッキリスッキリ気持ち良く見える感覚が取り戻せそうな希望がでてきました。

 というわけで、これからは月の眼視観望を積極的にしたいという思いが強くなり、そのためにはどういう環境を整えればよいか考えることにしたわけです。それでまず初めに、めざすべき条件を挙げてみることにしました。

月観望用望遠鏡の条件

 ①できるだけ楽な準備ですぐに観望体勢に入れること
   ⇒長く続ける上でとても大切
 ②双眼装置(デンクマイヤー)+正立ミラーが使いやすいこと
   ⇒正立像をじっくり疲れずに見続けることが可能。せっかくの正立双眼装置を使い倒したい
 ③できるだけ口径の大きい望遠鏡で200~300倍を常用できること
   ⇒月面地形を詳細に見るために

 これらの条件から熟慮した結果、タカハシμ180Cを微動付きの経緯台に載せて月を見るという結論に至りました。

【機器部品構成】

① 鏡筒    タカハシμ180C
② アリガタ  MORE BLUE AU004 ビクセン規格380mm
③ アリミゾ  NEEWER QR011
④ 正立ミラー マツモト EMS-UMB
⑤ 双眼装置  デンクマイヤースーパーシステム(DenkⅡ)
⑥ 経緯台   SVBONY SV225
⑦ 三脚    ARTCISE KS90C

組み上げた月観望用望遠鏡

 以下にその理由を述べたいと思います。

 まず①③の条件からできるだけ軽量で比較的丈夫な経緯台+三脚が良いと思いました。2024年に導入したSVBONYのSV225経緯台(耐荷重10kg)とカーボン三脚の組合せです。この経緯台と三脚で重量は約5kg、脚を縮めた時の高さは約93cmと片手でひょいと持てる扱いやすさ。設置も三脚を開いて置くだけで済みます。
 自動で導入&追尾が可能なSKYWACHERのAZ-GTiX(耐荷重片側6kg)も持っているのですが、いかんせん電源の用意・接続やスマホにつないで水平出し、アライメント作業などがけっこう面倒くさいんですね。たまに接続が切れたり導入がうまくいかなかったりイライラするんです。それに搭載重量に余裕がなく軽量の鏡筒に制限されるのも目的に合いません。
 逆にもっと丈夫なT-REX経緯台(耐荷重15kg?!)は強度的には余裕しゃくしゃく、きわめてスムースでガタつきがないので気持ち良い。ただ、重量が三脚込みで17kg超と中型赤道儀並みに重く、気軽に設置・撤収という気にはなれないのでこれも却下としました。

SKYWACHERのAZ-GTiX/月追尾もできるのは魅力
T-REX経緯台に載せたμ180C/安定感は抜群だが重い!

 ②③から屈折やニュートン反射よりもカセグレンタイプの反射が望ましいと思いました。私の持っている双眼装置(デンクマイヤー)はアイピースを変えずにレバー操作で3つの倍率が得られます。しかし、屈折やニュートン反射では倍率を上げるたびにドローチューブを大きく繰り出す必要があります。ドローチューブの繰り出し長が足りないと最高倍率でピントが合いません。屈折やニュートン反射では合わないものが多いです。合ったとしても大きく繰り出した時にドローチューブに大きな負担がかかりますしバランスも崩れます。一方、カセグレンタイプだと主鏡を前後することでピントを合わすため、変倍することによるドローチューブの負担やバランスの崩れがほとんどありません。このタイプにはシュミットカセグレンやマクストフカセグレンなどがありますが、私がμ250を使っていることもあり、比較的軽量で取り回しのしやすいμ180Cを選びました。筒先が補正板で閉じられていないので温度順応が早いということ、焦点距離が長く高倍率が得やすいこと、手持ちのμ250用レデューサーも使えることが決め手になりました。μ180Cやμ250(旧型)は中心像が無収差の反面、中心から離れると収差が大きくなるタイプですが、高倍率の月・惑星観望ならその欠点は問題になりません。また、μ180Cに正立双眼装置を付けた時の重さが約8.2kgになるので、一応SV225経緯台の耐荷重10kg内に収まっています。

正立ミラーと双眼装置の組合せ/重さは全部で約2kg!

 というわけで、今回思い切ってμ180Cをお迎えすることになりました。
 μ180Cは独自規格のアリガタ・アリミゾが標準で付いていますが、いわゆるビクセン規格とは微妙にサイズが異なります。他の赤道儀に載せるなど汎用性を考えてビクセン規格のアリガタ380mm(MORE BLUE AU004)を合わせて購入。スターベース東京さんにはいろいろ相談にのってもらってお世話になりました。
 付属のファインダーは3cm6倍の小型のものですが、月を入れるには十分。しっかり鏡筒に取付けられているので持ち手に使えるのがうれしいところ。鏡筒を抱えなくても片手で楽にバランスよく持ち上げることができます。
 また、ピントを合わせるためのノブはとても滑らかに回せます。どれだけ回せるかやってみるとIN側の端からOUT側の端まで約14回転しました。これなら微妙なピント合わせができそうです。でも場合によってはひたすら回す必要があるのではないかという懸念が…(笑)

タカハシμ180C本体(スターベース東京のHPより)
標準付属のアリガタ・アリミゾ
(スターベース東京のHPより)
ファインダー
(スターベース東京のHPより)
接眼部とピント調整ノブ
(スターベース東京のHPより)

 早速、月が見える夜にファーストライトをしてみました。
 24mmアイピースを装着した正立双眼装置(2×リレーレンズ付)では、3つの倍率(およそ200倍、270倍、400倍:測定していないので不正確)ですべてピントが合いました。しかぁ~し、予想はしていたもののピントを合わせる時にめちゃくちゃ揺れます。これは高倍率ということもあるのですが、経緯台の強度不足が大きな要因でしょう。鏡筒に触れると目で見てもグラグラしているのがわかりますから(^_^;) でも月面は星にピントを合わせるより容易に合わせられるのでなんとかなります。さらに微動ハンドルを操作した時も合焦時よりかなりマシですが揺れます。手を離して揺れが落ち着くと日周運動で動くけれども十分観察できました。400倍だと対象を元の位置に戻すのに忙しいですが、ある一つの地形に注目して見れば問題ありません。日周運動による動きは心配したほどではなかったです。これでいったんピントを合わせてしまえば大丈夫という感覚が得られました。ひと安心です。
 欲を言うとμ180Cに電動フォーカサ―があったらいいですね。さらに、それほど重くなくて強度の高い経緯台があれば交換したいというのが正直なところ。ところが頑丈で滑らかなT-REX経緯台に載せた時、重い双眼装置が直角に付いているので、仰角の変化でバランスが狂うことに気づきました。いわゆる力のモーメント作用ですな。ベアリング軸の滑らかさが仇になっている状況です。そのままだと高度軸の微動を動かす時に上方向と下方向では操作の重さがずいぶん違います。かと言ってその都度天体の高度に合わせて微妙にバランス調整をしないといけないのはとても面倒です。その点SVBONYのSV225経緯台は重さで軸が歪んでそれが抵抗になり、バランスの変化に寛容です。水平でバランスを調整すればそれで問題なし!微動操作の重さもさほど変わりません。(納品時に微動のあそびが大きかったので調整して今は快適です)一人で見る分にはむしろこれで良いかもと思ってしまいます。

 次に具体的な運用のしかたです。次のような準備・手順で行うのが良かろうと現時点では考えております。

月観望用望遠鏡の運用手順

① 天文台の中にμ180cと経緯台+三脚、椅子をサッと出せるように保管しておく
② 観望する前にスライディングルーフを開けてそのルーフの下(ルーフバルコニーのスぺース)に機材を設置し、鏡筒のふたを開けて温度順応させる
③ 天文台の赤道儀に載せた鏡筒(μ250他)で写真やビデオ撮影をする
④ 撮影終了後、スライディングルーフを閉じて眼視観望をする
⑤ 天文台に機材をしまう

必要に応じて除湿器を作動させる

 今の環境で、いかに簡単に出し入れできるかがポイントです。いくら軽量の機材だからと言っても、いちいち部屋から持ち出し階段を上がって設置するのは何倍も面倒ですからね。

楽な姿勢を保つために高さの変えられる椅子を使用

 という感じで、これからは眼もリフレッシュして月面の眼視観望を楽しんでいく所存です。「天体観測は月に始まり、月に終わる」と大昔に誰かから聞いた言葉ですが、今になってようやく心に響いてきました。何せ月は地球から最も近い天体ですし、最も詳細に観察できる天体です。しかも、満ち欠けや秤動もしますから、いつ見ても微妙に違う地形の見え方をするもの魅力です。しっかり見てやらないともったいないと思いませんか?!
 特にシーイングの良い時の見え方には感動します。そんなタイミングに数多く出会うためには日々の観察が大事ですよね。良く使う望遠鏡が最良の望遠鏡(某メーカーの宣伝文句だったか?!)になるよう末永く使っていきたいと思います。
(おわり)

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