月観望用 双眼装置

 2022年10月16日 午前1時過ぎ、月面の撮影が終わったところで久しぶりに双眼装置を望遠鏡につけて月面の観望を行いました。今回はその双眼装置についてご紹介します。

 双眼装置は2014年頃購入したデンクマイヤースーパーシステム(DenkⅡ)です。マツモト式正立ミラー(Mサイズ)にこれをつけて、正立双眼視を実現しています。ただ、写真のようにデンクマイヤー純正のOCSという2倍のリレーレンズに加えてACクローズアップレンズNo.2を正立ミラーに付けて望遠鏡で合焦するようにしています。(OCSだけでは合焦しなかったので仕方なく…クローズアップレンズは49mm径ですが研磨して48mm径相当にしています)
 アイピースはバーダープラネタリウム製 HYPERION 24mm(見かけ視界68度)で、アメリカンサイズでは最も広い視野が得られるものを選びました。

 デンクマイヤースーパーシステム(DenkⅡ)の良いところはパワースイッチと称されるものがあって、3段階の倍率がワンタッチで選べることです。ロゴのついたアームを押し込むと低倍率、反対のアームを押し込むと高倍率に、両方のアームを出すと中倍率にといった具合です。
 私の場合、APM ZTA152(D=152mm f=1200mm)の2枚玉アポクロマート屈折に装着することで、約65倍、103倍、176倍の3段階が得られ、すべて合焦します。
 そして、マツモト式正立ミラーにより正立像で見られることもポイントです。月面を裏像で見るととても違和感があるので、ここはゆずれませんでした。

 65倍ではシーイングの悪い時でも、月全体がとてもシャープに見られます。103倍でも月全体が視野に収まるので通常はこの倍率ででじっくりとながめます。そして、気になる場所を176倍で拡大して観察するといった具合です。
 リレーレンズにクローズアップレンズさらにはパワースイッチとやたらレンズが組み合わさりますが、色にじみや像の劣化はあまり感じられません。それよりも正立双眼視による見やすさが勝る印象です。正立ミラーのサイズがやや小さい(マツモト式にはもっと大きなミラーのものがある)ので視野のけられが心配されましたが、実用上はほとんど気になりません。結果、このシステムで見る月面には非常に満足しています。

ZTA152(f=1200mm)の直焦点撮影

 この夜、観望した時の月齢は19.8で、晴れの海東側のスミルノフ尾根・リスター尾根、静かの海西側にあるラモント周辺のリンクルリッジ(しわ状地形)がちょうど欠け際にあって見頃でした。撮影していた時はさほど注目していなかったのですが、この双眼装置で見るとこれらリンクルリッジがバ~ンと目立って見えるのです!PCモニタ画面や写真とは比べ物にならないほど明るくコントラスト良く見えました。ラモントの西にあるアラゴ近くのドームα、βもぷっくりとよくわかりました。
 何度も月面は望遠鏡で見ていますが、これら地形がここまで目立って見えたのは初めてです。しばらく時間を忘れて見とれておりました。やはり撮影だけで満足していてはいけませんね。眼視の素晴らしさを再認識させられました。

μ250でモザイク撮影

 ここまで良いことばかり述べてきましたが、難点もあります。
 1つ目は重量の問題です。この双眼システム全体での重量は約2.1㎏!!接眼部にかかる負担はかなりのものです。特に高倍率にするときはドローチューブを外にかなり繰り出しますので神経を使います。しかも長さが30cmを超えますから、しっかり各部のねじを締めないとぐるんと回転し落下の危険もあります。取り扱いは十分気をつけないといけません。なお取付けることで鏡筒の前後バランスもかなり狂います。その対策として普段は接眼部側にウェイトトレーニング用のおもりをつけていて、重いカメラや双眼装置をつけるときはおもりを外してバランスを取るように工夫しています。
 2つ目の問題は観測室壁面と干渉してしまうことです。私の天文台はスライディングルーフでそれほど大きくはありません。それで月が低いとアイピースの位置が壁面に近くなり両目でのぞけなくなります。方位角にもよりますが、だいたい月の高度が60度近くないと余裕を持ってのぞけません。これはかなり致命的です。この夜は写真のように出入口扉を開けてのぞけたので高度50度くらいでもOKでした。

高倍率で最もドローチューブを引き出した状態

 というわけで、月観望用の双眼装置を紹介させていただきました。ただ、このデンクマイヤーの双眼装置は現在販売されていないのかもしれませんね。ネットで検索しても中古品しか引っかかりません(新品入手可能ならゴメンナサイ)。
 先に述べた問題から実際に活躍する機会がそれほど多くないのが現状ですが、今回のように感動的な体験ができたりするので、またシーイングなど条件の良い時にじっくりながめてみたいと思います。さらには遠征で星のきれいなところへ出かけた時にも星雲星団観望用として活用してみたいと考えています。
(おわり)

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