自宅天文台で撮る星雲星団-15cm屈折編-

 長時間の天体撮影を自宅で行うことの最大のメリットは楽だという事に尽きます。パソコンやソフトウェアの進歩のおかげで撮影も自動でやってくれますし、その間テレビを見たり風呂に入ったり寝たりすることだって可能です。
 天体撮影の妨げになる街灯りをカットするフィルターを使う事で、自宅でもある程度の天体写真が撮れることがわかってから本格的に撮影を始めるようになりました。
 ここでは撮影機材や手順,撮影した写真などを紹介したいと思います。

まず撮影機材です。
 ①望遠鏡:   APM ZTA152(D=152mm、f=1200mm)
         /2枚玉EDアポクロマート
 ②レデューサー:49mm径のケンコー ACクローズアップレンズNo.2
        (接続には48←→49mmのSTEPUP&DOWNリングを使用)
         ⇒焦点距離は約975mm、F値は6.4となる。
 ③フィルター: サイトロンQuadBPフィルターなど
 ④赤道儀:   タカハシのNJP Temma2(μ250も同架)
 ⑤ガイド鏡:  口径50mm F4アクロマート(国際光器)
 ⑥ガイドカメラ:QHY 5L-II M
 ⑦ノートPC :Astroarts社製アプリ「ステラショット2」で機器を制御

カメラマウントとレデューサー
ガイド鏡とガイド用カメラ

 レデューサーは専用のものではなく,3000円程度のACクローズアップレンズNo.2を流用しています。ただ,外径が49mmで2インチドローチューブに入らなかったので,やすりをかけて無理やり入るようにしました(;^_^A。専用のレデューサー(F6になる)は価格が約12万円!対して接続のリングも含めて5000円程度でできたことを考えれば,周辺の星像のゆがみは少しありますがまずまず満足しています。
 ガイド鏡は鏡筒バンドにアルミ板を取付け,そこに固定しています。ファインダー脚による支持なので不安はありましたが,よほど風が強くない限りガイドエラーなく安定して撮影ができています。

次に撮影手順はだいたい次のようにしています。
 ①赤緯軸を水平にしてカメラも水平にセット(画面上を北にするため)
 ②バーティノフマスクを付けて1等星でピント合わせ
 ③ステラショット2を起動して機器を接続
 ④望遠鏡の向いている向きをステラショット2に認識させる(同期)
 ⑤ステラショット2;オートガイドのキャリブレーションを実行し成功を確認
 ⑥AnyDeskというアプリで部屋のPCから天文台のPCの操作ができるようにする
 ⑦ステラショット2で目標天体を導入
 ⑧カメラのISO感度,枚数などをセットし部屋のPCから撮影
 ⑨筒先に2mm厚のアクリル板(乳白色)を取付けてフラット撮影
 ⑩筒先(又はカメラ)に蓋をしてダーク撮影

水準器で赤緯軸を水平にする
カメラの水準器で水平に合わせる

「AnyDesk」というフリーのアプリを使うとインターネットにつながっている他のPCの画面を映し出し,そのPCの操作ができるようになります。(他にもっと使い勝手の良い同様のアプリがあるかもしれませんが…)。このアプリ,Wi-Fiでつないだ時になぜか接続が切れることがよくあったので,宅内の有線LANでもっぱらつなぐようにしています。
 フラット撮影は1対象ごとに行った方が良い結果を得ることができます。違う方に向けて撮ったフラット撮影を適用するとうまく補正できないことが多いです。これは画角の中で街明かりによる光害の強度にムラがあるからではないかと考えています。
 ステラショットというアプリにはスケジュールを組んで複数の天体の導入撮影を自動的に行う機能がありますが,フラット撮影する必要から,今は1対象の撮影が終わるごとに天文台へ上がっています。別対象導入時に配線が引っかかったりしないかも意外に心配でもありますし,当面はこのスタイルで撮影するつもりです。

AnyDeskで映し出した別PC:ステラショットの画面
この画面上で別PCのステラショットを操作できる

 このようにして撮影した写真は, Astroarts社製アプリ「ステライメージ9」にて現像,位置合わせ,コンポジットなどを自動的に処理し,Photoshopを使ってレベル調整,色調整などをして仕上げます。このあたりの手順はあまりに複雑なので割愛しますが,まだまだスキル不足でなかなかうまく仕上げられないでいるところです。

 自慢できるレベルではなく仕上げもバラバラですが,焦点距離1000mm近い15cm屈折望遠鏡で撮影した天体,画像処理した結果を以下に紹介させていただきます。よろしければ最後までご覧ください。
(ノートリミングと書いているもの以外は,適宜トリミングをしています。)

【さんかく座の銀河 M33】
撮影日時:2021.10.6 21:59~23:54
露出:ISO3200 180s×33枚

距離は約300万光年,私たちの銀河系に近い銀河です。しかし,うすく広がっているため街明かりがあると双眼鏡や望遠鏡でもなかなか見つけづらい対象です。QuadBPフィルターを使用することで思いのほか明るく写りました。

【おうし座の散開星団 M45】
撮影日時:2021.10.15 0:55~2:16
露出:ISO3200 180s×25枚

すばるの和名で有名な星団です。街中でも肉眼で確認できます。双眼鏡または望遠鏡低倍率で見るととても美しい星団です。青い光芒はチリの雲が星の光を反射して見えています。撮影枚数が少なかったためか,画像が粗くなってしまいました。

【オリオン座の散光星雲 NGC2174】
撮影日時:2021.10.15 2:23~4:13
露出:ISO3200 180s×34枚

猿の横顔に似ているので「モンキー星雲」と名付けられています。散開星団NGC2175と重なっています。意外に明るく写すことができました。QuadBPフィルターとNikon D810Aの組合せは街中でも赤い星雲をとらえやすいように思います。トリミングしています。

【オリオン座の散光星雲 IC434】
撮影日時:2021.10.16 2:36~4:19
露出:ISO3200 180s×32枚

黒く馬の頭の部分が赤い星雲をバックに浮かびあがっているので「馬頭星雲」という名で知られています。左上には燃える木星雲と呼ばれる散光星雲NGC2024も赤く写っています。フラット処理が上手くいったのでノートリミングです。

【オリオン座のオリオン大星雲 M42】
撮影日時:2021.10.18 2:36~4:13
露出:ISO3200 30s,60s,120s,180s 各8枚

肉眼でもわかる有名な散光星雲です。中心部に輝く生まれたての大きく明るい星の光で星雲が光っています。ピンクの羽を広げたように見えるところがM42,鳥の頭・くちばしのように見えるところがM43です。これらは1500光年にある私たちに最も近い星の大工場です。
また,その上の青い星雲は走る人の影のような形が見えることから,「ランニングマン星雲」と呼ばれることがあります。

【ペルセウス座の二重星団 h-χ】
撮影日時:2021.10.26 20:05~21:20
露出:ISO3200 180s×24

天の川が見える条件なら肉眼でも確認できる明るい散開星団です。同じ規模の星団が仲良く並んでいるので二重星団と呼ばれます。望遠鏡では同一視野に入り,とても美しく見えます。

【こぎつね座の惑星状星雲 M27】
撮影日時:2021.10.29 18:28~20:52
露出:ISO3200 180s×28枚

惑星状星雲とは太陽程度の恒星が死を迎え,ガスを周りに放出した姿です。M27は惑星状星雲の中でも比較的大きく明るいので小型望遠鏡でもよくわかります。くびれた形が鉄アレイに似ていることから「あれい状星雲」と呼ばれますが,私にはかじったリンゴに見えます。

【カシオペヤ座のM52とバブル星雲】
撮影日時:2021.10.29 21:12~22:53
露出:ISO3200 180s×31枚

左上の小さな星の集まりが散開星団M52,右下の赤い散光星雲が「バブル星雲」NGC7635です。 星雲の中心付近の明るい星のまわりに泡のような丸い形が見えます。これは明るい星が噴き出す風でまわりの星雲が押し広げられて形成したものと考えられています。ノートリミングです。

【みずがめ座の惑星状星雲 NGC7293】
撮影日時:2021.11.3 19:27~20:59
露出:ISO2000 180s×30枚

距離が約700光年と惑星状星雲としては最も近いので,見かけの大きさは満月の半分くらいにもなります。その形から「らせん星雲」とも呼ばれます。南の空低いので,街明かりの影響を強く受け,仕上がりが悪くなってしまいました。条件の良い空で再チャレンジしたいです。M27とスケールは合わせていますので大きさ比較ができます。

【アンドロメダ座の大銀河 M31】
撮影日時:2021.11.4 18:42~20:47
露出:ISO3200 180s×37枚

距離230万光年,銀河系から最も近い渦巻銀河です。星の良く見える場所なら肉眼で十分確認できます。街明かりのある場所からは望遠鏡で見ても中心付近がぼうっとわかるくらいですが,フィルターのおかげでかなり周辺部まで写し出せました。ただし,大きな広がりを持っているので画面からはみ出していますね。ほんのわずかにトリミングしています。

【カシオペヤ座の散光星雲 IC1848】
撮影日時:2021.11.4 21:16~22:06
露出:ISO3200 180s×15枚

妊婦のお腹にいる胎児のような姿から「胎児星雲」と呼ばれます。雲が通過したためコンポジットに使える撮影枚数が少なかったのですが,それらしい姿が浮かび上がりました。特に,顔のあたりの目鼻口が良くわかりますね。ほとんどトリミングはしていませんが,頭の部分とかがはみ出しています。

【ぎょしゃ座の散光星雲 IC405】
撮影日時:2021.11.4 23:24~11.5 1:19
露出:ISO3200 180s×35枚

その形から「勾玉(まがたま)星雲」と呼ばれています。下の方へまだ続いており,画面に入りきりませんでした。ノートリミングです。

【いっかくじゅう座のばら星雲】
撮影日時:2021.11.5 1:48~3:50(雲により一時中断)
露出:ISO3200 180s×27枚

ばらの花に似た散光星雲NGC2237-9, 2246です。中心の星たちはここで生まれた星です。15cm屈折望遠鏡でギリギリおさまりました。ほんのわずかにトリミングしています。

【ぎょしゃ座の散光星雲 IC410】
撮影日時:2021.11.5 23:52~11.6 1:48
露出:ISO3200 180s×30枚

星雲の中心からやや左上の明るい部分がおたまじゃくしに似ていることから「おたまじゃくし星雲」と呼ばれることがあります。同じぎょしゃ座の「勾玉星雲」の東となりに位置しています。ノートリミングです。

【いっかくじゅう座のNGC2264】
撮影日時:2021.11.6 2:14~3:31
露出:ISO3200 180s×24枚

散光星雲の形が円錐形に見えるため「コーン星雲」と呼ばれています。またそこに散らばる星たちは「クリスマスツリー星団」と呼ばれています。これらをひっくるめて正式名称はNGC2264になります。私にはどれがコーンでどれがクリスマスツリーがピンとこないのですが,皆さんはおわかりですか?
ノートリミングです。

【はくちょう座のペリカン星雲】
撮影日時:2021.11.7 19:23~21:20
露出:ISO3200 180s×34枚

ペリカンの姿そっくりの散光星雲IC5067〜5070です。特に,頭・目・口ばし が秀逸ですね。東(左)隣に赤い星雲の一部が見えていますが,こちらは有名な「北アメリカ星雲」。北アメリカ大陸の形にそっくりで,「ペリカン星雲」より明るく大きい散光星雲です。残念ながら15cm屈折望遠鏡では入りきれません。ほんのわずかにトリミングしています。

 以上,10月の初めからほぼ1か月間,主だった星雲星団・銀河などをQuadBPフィルター使用で撮影してみました。

 感想としては,自宅でここまで撮れるとは思わなかったというのが正直なところです。特に,赤い散光星雲がすんなりと浮かび上がってくれました。まさにフィルターの効果といえるでしょう。
 ただ,かなりの波長をカットしているため,カラーバランスを調整するのが難しかったです。赤っぽい星が多くなったり,星の自然な色を表現するのが困難ですし,天体の豊かな色調を表現するには限界があると感じました。これがこのフィルターの欠点と思われます。
 また,1対象について20数枚~30数枚は撮影するようにしましたが,強調処理をすると荒れてしまうので,もっと多くの枚数が必要であると思いました。諸先輩方は何日にもわたって同じ天体を撮影し続けて良い結果を出されているようです。今後の課題ととらえておきます。
 これからは自宅からの撮影は継続しつつ,画角におさまらない広がった天体や自宅で撮影してよい結果が得られない天体については遠征して別機材で撮影するというスタイルをとろうかと考えています。

 ここまでかなりボリュームとなってしまいましたが,最後までご覧いただきありがとうございました。少しでも興味のある皆様の参考になれば幸いです。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
目次