正立仕様のFC50をAZ-GTiXに載せてみた

目次

はじめに

 私はタカハシのFC50鏡筒を保有しています。ずいぶん前に製造中止になりなしたが、小さくてもフローライトレンズをおごり結像性能が大変優秀な鏡筒として知られています。購入したのは忘れもしない1991年のハワイ皆既日食の直前です。その撮影機材に選定したのでした。
 その後、数回日本での日食撮影に使用した以外は望遠鏡による直焦点撮影のガイド用としてもっぱら使っていました。しかし、ここ十数年ほとんど小屋裏へ置きっぱなしで活用できていない状況 (^_^;)。もったいないですね。
 そんな折、X(旧Twitter)でフォローさせていただいている@mitu0715さんがタカハシのFC50をAZ-GTiマウントに載せてお手軽観望をされているのを知りました。軽くてサッと持ち出せ、月がすごくきれいに見えますよとおっしゃっていました。これに刺激を受けて今回、眠っているFC50を活用したいと思い立ったのでした。

FC50正立化の検討

タカハシFC-50

 久しぶりにFC50を確認してみると鏡筒のあちこちに傷は見られるもののレンズは幸いカビもなくきれいです。 接眼部は当時の標準添付品にオプションで付けた回転装置、そしてのちに追加した31.7mmスリーブのみ。接眼部に付く天頂ミラーやプリズムはありません。
 月はやはり正立像で見たいので、手持ちのマツモト式正立ミラーMサイズ(光路長122mm)を使用したいと考えました。@mitu0715さんに2インチ接眼部にするパーツを教えてもらいピントが合うかスターベース東京にも相談して検討したところ、残念ながらバックフォーカスが足らず使えないという結論に至りました。それで、最終的には31.7mmサイズの正立プリズム(笠井トレーディングの31.7mm90°DX正立プリズム)を購入することに決定!光路長は約79mmなので、回転装置(光路長約20mm)を外せば、余裕でピントが出そうです。多少、高倍率で劣化が見られるとのことでしたが、値段、重量、性能のバランスを考えて割り切ることにしました。

架台の選定

SKYWATCHER の 経緯台 AZ-GTiX と専用三脚

 一方、架台の方はAZ-GTiを想定していました。ネットでの評判も良い自動導入&追尾ができる2軸モーターの経緯台で、wifiによりスマホからのコントロールが可能です。しかも低価格!ほとんどこれにするつもりでいたのですが、2023年6月にこれの新機種AZ-GTiXが発売になっているではありませんか!両側に望遠鏡などを搭載できるパーツがはじめから付属していて、搭載可能重量もほんの少し向上しているようです。AZ-GTiより1万円強高いですが、ツイン載せができるので双眼鏡を載せたり、望遠レンズで電子観望とか…いろいろ活用できそうです。というわけで、AZ-GTiXの三脚付きセットに決定いたしました。

FC50に正立プリズムを取付

外すのに苦労した回転装置と接続リング

 正立プリズムが到着していよいよ取り付けです。心配していたのは回転装置が外れるかということです。これを外さなければ接眼レンズによってはピントが合わない可能性があります。回転装置は購入当初から一度も外したことがなく手で回してみてもビクともしなかったのでした。もちろん回転装置を作動させる時に接続リングが回っては困るので固めに締め上げているのでしょう。

 やってみた結果…
ドローチューブと回転装置は何とか手で外せました。顔を真っ赤にしてやっと(笑)。しかし、回転装置と接眼側のリングが手ではどうしても外れない (汗)。苦労しましたが最終的には万力とパイプレンチと木槌でようやく外れましたぁ~やった~。ちょっとリングに傷がついたけど良かった。

 ところが、一難去ってまた一難…今度はプリズムの取り付けに問題が…
 笠井の正立プリズムのバレルには脱落防止の溝が切ってありまして、そしてタカハシの31.7mmスリーブの固定がリング締め付け式でして、深く差し込めばちょうど締め付けリングが凹んだ溝のところにくるのでした。
 その結果、最も締め付けても凹んだ溝の底までリングが締まらず空回りして固定できないことが発覚!少しバレルを引き出して締めれば固定されるのですが、スマートではないですね。そこで、家に転がっていたダイソーのアルミテープをプリズムのバレルの溝に合わせて切って貼り付けること3周!ようやくいい感じに締まるようになりました。いやあ思った以上に時間がかかりました。あとは実際に月や星でピントが合うのを確認するだけです。

AZ-GTiXの組み立てとFC50の装着

AZ-GTiXマウントにFC50を取り付けたようす

 次にAZ-GTiXマウントと専用三脚を室内で組み上げてみました。三脚はパッと開いてアクセサリートレイを装着するとOK!三脚に延長筒(エクステンションピラー)を付けて本体とつなぎます。
 AZ-GTiXは両側に望遠鏡を載せられますが、もちろん片側のみでも使用可能です。説明書によるとその場合は高度軸固定のクラッチホイールがある方に載せるよう書かれています。さっそく一番重いアイピースを装着したFC50一式(約2.7kg)を装着してみるとなんとか前後バランスはとれました。ただ、各部が接触しない位置にするとどうしてもファインダーが鏡筒の右側に来てしまいます。効き目が右なので少々不便です。

延長筒(エクステンションピラー)

 また、マウントを固定した状態で鏡筒に力を加えると微妙に動きます。これは特に延長筒(エクステンションピラー)の接合面でのたわみに起因しているように感じます。延長筒を外して三脚にマウントをじかにつけると少しだけマシにはなります。マウントの接合は3/8インチネジですが、説明書には強く締め付けすぎないよう注意書き(マウント内部の機械部分等の破損の恐れあり)があります。強く締めていってもがっちり止まる感触もなく、なんだかモヤモヤします。マウントの方位、高度各軸の固定つまみを少し強めに締めても力をかけると簡単に動いたりするので総じて剛性感には欠ける印象です。おそらく高倍率でピントを合わせるにはプルプルして合わせにくいだろうと思われます。AZ-GTiもこんなものなのでしょうか?!

電源と制御ソフト

モバイルバッテリーと5V→12V昇圧ケーブル

 動作させるにはまず電源が必要です。本体に内蔵された電池ボックスに単三電池を8本入れるか外部からDC12Vを供給するかを選べます。外部電源は電圧制御されない自動車バッテリーなどは不可とされています。電源の供給要件としてはDC7.5V(最小)~14V(最大)で1A以上、入力端子はDCプラグ(内径2.1mm外径5.5mmのセンタープラス)となっています。私は乾電池を使いたくなかったので、手持ちのモバイルバッテリーにAmazonで見つけた5V→12Vの昇圧ケーブル(長さ1m、1A以下推奨)をつないで使おうと目論みました。(やや不安)
 次に専用の制御ソフト「Synscan」または「Synscan Pro」をスマホかタブレットにインストールする必要があります。「Synscan Pro」の方は太陽の導入ができるので迷わずこちらを選択。インストールする端末は使い古してSIMを外しお役御免となったiphone6sとしました。現在使っているiphoneをAZ-GTiXのwifiにつなぐと普段の通信ができなくなりますからね。App Storeからは問題なくインストールできました。

室内で動作テスト

昼間、室内で動作テストをしてみました。

操作の手順は大まかに以下のとおり
 ① AZ-GTiXに望遠鏡を載せて水準器を見ながら三脚の長さを調整し水平をとる
 ② 望遠鏡を北に向け水平にして固定する
 ③ AZ-GTiXの電源SWを入れる
 ④ スマホをAZ-GTiXのwi-fiに接続する
 ⑤ スマホのアプリSynScan(Pro)を立ち上げAZ-GTiXと接続する
 ⑥ アプリでアライメント(何種類か選べる)を行う
 ⑦ アプリで見たい天体を導入する

AZ-GTiXマウントに付いている水準器
手持ちの水準器をアクリル板を利用して貼り付けた

 まず①ですが、AZ-GTiXの水準器が小さくて見づらい!しかも精度もラフというか鈍感のようです。ですので家に転がっていた水準器とアクリル板をAZ-GTiXの底面に両面テープで貼り付けました。それを使うとだいぶ水準を合わせやすくなりました。

 ところが…!合わせてから方位を180度回転させるとズレるじゃないですか!内側の円から気泡が逸脱し望遠鏡と反対側が高くなります。次にAZ-GTiXからFC50鏡筒を外して同様に動かしてみると…今度はどの位置へ動かしても一応水準器の内側の円内に収まります。つまりこれは方位軸とAZ-GTiXの底面の直交についてはまずまずで、片側に望遠鏡を載せるとその重みで望遠鏡側に少し傾くということですね。
 気になったのでiPhone の水準器アプリ(精度は不明)で測ってみると、何も載せない時に180度の位置で傾きが0.4度の差、片側にFC50一式(2.7kg)を載せた時では1.6度の差となりました。
 先にも述べたように片側に荷重がかかってAZ-GTiXマウント底面と延長筒の接合面でたわんでいるように思えます。これが実際に使ってみてどの程度影響するかが気になるところです。AZ-GTiXの仕様としては片側最大6kgまで搭載可になっていますが、大丈夫かな?と個人的には思います。できれば両側に同じ重さの軽量機材を載せて使うのがベターなのでしょうね。

専用の制御ソフトSynScanPro の画面

 そしていよいよ電源投入です。モバイルバッテリー+昇圧ケーブルでAZ-GTiX 本体のLEDは点きました。アプリをAZ-GTiXに接続して、昼間なので太陽で1点アライメントを実行!おお〜っ!ジャラジャラと音を立てて軽快に動きます。重そうな感じはなく良い感じです。野外だとここで太陽を真ん中に導入し(太陽専用フィルターなしに覗くと危険)、アプリのボタンをタップすると簡易なアライメント完了になるというわけです。室内なので一応真ん中に入れたつもりでタップしアライメント完了。次に金星を導入とアプリから指令を出すとそれらしき方向へ軽快に向きます。追尾中の音は静かで動いているのがわからないくらいです。どうやらAZ-GTiXはまともに動いているようですね。ちなみに時刻や観測位置はスマホから取得して計算しているようです(すばらしい!)。そして心配していたモバイルバッテリー+昇圧ケーブルも問題なく機能していることが確かめられました。一安心です。

屋外で動作テスト

自宅ルーフバルコニーから動作テスト

 9月25日夜、ようやくきれいに晴れたので自宅ルーフバルコニーから使ってみました。
FC50にセットしているアイピースは常用にしたいと考えているナグラー16mm、重いのがたまにきずですが見かけ視界が82度もあるのが良いところ。FC50と組み合わせると倍率25倍、実視界3.3度の計算になります。
 さて、水準器で適当に水平を出し、FC50をだいたい北に向けて水平にして、月で1点アライメント。ビーンと鏡筒が動き…お~っ視野のギリギリ端に入っていた。ピントも余裕で合わせられました。まだ10mm以上ドローチューブを繰り込むことができます。良かった、良かった。この余裕なら他のどのアイピースでもピントは合いそうです。とりあえず第一段階クリアしました。
 次に、最初の位置から今度は3点アライメントを実行。北極星とアルタイルとフォーマルハウトを選びました。これで導入精度が上がるはず。実行後、月を導入~、あれっあんまり真ん中に入っていない?!
 実視界3.3度なら入るけど、半分の視界なら外れるかもという精度…こんなものなのか?もっと水平出しや鏡筒の北向けなんかをしっかりしないといけないのか?そもそも3点アライメントすれば多少のズレは修正してくれるんじゃないの?などと思いましたが、室内で確認した片側搭載によるズレが影響しているのかもしれませんね。このあたりは後日検証することにしましょう。それよりもこの日はFC50の見え方に興味が移り、色んな天体を倍率変えて観察していったのでした。

FC50で月と二重星を見る

月齢10.4の月 FC50の57倍で見たイメージを記憶を元に写真で表現
(実は15cm屈折で撮影した写真)

 まずはお月さま。当日の月齢は10.4でした。ナグラー16mmの25倍で見るとパキッとシャープで明るさもコントラストも申し分なし!何しろ目で見た月がそのまま大きくハッキリ見える感覚で、これぞ正立像の恩恵ですね。見ていてとても気持ちいいです。アイピースをナグラー7mmに変えると倍率57倍、実視界は1.4度になりまして、これもまた良い!十分シャープでより迫力が増して月の全体が楽しめます。続いてナグラー4.8mmでは倍率83倍、実視界1度になります。当然ながら大きく見えるのとは引き換えに月面が暗く見えて美しさがスポイルされる感じ…それに像が少しあまくなります。プリズムの影響があるのでしょうか?さらに無理してナグラー3.5mm。こちらでは倍率114倍、実視界0.7度。のぞくと月は視野内に収まっていますが、目をグルっと回さないと見えません。月面は暗くぼやっとする感じで、飛蚊症が目立ってしまいます。全く気持ちよくありません。
というわけで、FC50+正立プリズムで月を見るならナグラー16mmの25倍とナグラー7mmの57倍が気持ち良いとの結論に至りました。

FC50で使ってみたいアイピース

 続いてメジャーな二重星を観察しました。
アルビレオ、ヘルクレス座α、いるか座γ、アンドロメダ座γ、カシオペア座ηなど…記憶にあるのはほとんど口径10cm以上で見たイメージなので、比べると暗くてか弱く(?)見えます。でもそれなりにキレイです。離角の狭いものでも適切な倍率を選ぶとクリッと分かれて見えます。ダブルダブルスターで有名なこと座εは114倍で、いずれもダルマ状に見えるといった状況でした。星の色について大口径望遠鏡よりもむしろ濃く見える場合もあるように思います。カシオペア座ηの伴星は針でつついたような小さな赤い点に見えて印象的でした。最近、乱視が酷くなったので結構目に力を入れて見ましたが、小口径で見る二重星も乙なものだと感じた次第です。FC50ではかつて赤い十字とガイド星ばかりしか見ていなかったので非常に新鮮でした。今度、星のきれいに見える場所へ行った時には、アンドロメダ銀河や二重星団 h-χ、すばる等も見てみたいです。

おわりに

 今回、片側だけ望遠鏡を載せたAZ-GTiXマウントの自動導入は25倍なら視野内に入り、57倍なら外れることがあるという感じでした。最初に行う水平出しや鏡筒を水平にして北へ向けるという設定がいい加減だったからか、片側荷重によるたわみの影響かははっきりしません。正直、少々設置がラフでも57倍程度ならしっかり導入してほしいなあとは思いますが、価格と機能を考えるとぜいたくな要求なのでしょうか。とは言え、AZ-GTiX+専用三脚+FC50は総重量7.5kg。コンパクトで軽量なので部屋に組み立てておいてそのまま外へ楽に持ち出せるのは大きな魅力ですね。あとは専用アプリで月を導入すれば月追尾、星を導入すれば恒星追尾になるのも気が利いています。これからFC50の出番が増えそうな予感です。
 今後、初期の位置設定をより正確に行ったり、両側にバランスよく機材を載せたりして、導入精度が高まるか検証しつつ、うまく使いこなしていければ良いなと思います。その様子はまたブログ記事で報告させてもらうつもりです。たぶん…。

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